第1章

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「はじめまして、悠理(ゆうり)くん。お姉さん、悠理くんと仲良しになりたいのよ」  わざとらしくぼくの前にしゃがんだその女は、作り笑いが見え見えだった。  ブランドでこてこてに固めて、ヘアスタイルもメイクもファッション雑誌をコピーしただけじゃないかって感じでさ。金持ち(セレブ)っぷりをひけらかしてるヤーな女さ。  だからぼくも、とっときのイイコちゃんスマイルで言ってやったんだ。 「わあ、うれしいな。じゃあお姉さんが、ぼくの新しいお母さまになってくださるの?」 「ええ、そうよ。そうなれたら、とても幸せだわ」 「良かった。お父さま、ちゃんと約束守ってくださったんだ。ぼくの七才の誕生日までに、若くて美人で優しいお母さまを連れてきてくださるって。お母さまがいらっしゃらなくて、ぼく、とってもとってもさみしかったんだ」  カルく嘘泣きまでしてやって、そりゃもうカンペキさ。 「もう淋しくなんかないわよ、悠理くん。きっと妹や弟だってすぐに――」 「あ、それはいらない。間に合ってるから」 「……は?」 「うん。腹違いの弟や妹なら、もう三、四人はいると思うんだよね。お父さまが会わせてくれないけど。どうしてかな、ぼく、弟や妹をいじめたりしないのに。可愛い赤ちゃんなら、いっしょうけんめいお世話するんだ。……あ、男の子がこんなこと言うの、ヘンですか?」 「い、いいえ……。とても……良いことだと思うわよ。で、でも、その――」 「あと、お父さまには、ぼくが知ってるだけで十人くらい恋人がいるけど、気にしないでね。大丈夫、ぼくが見たなかじゃ、あなたが一番若くてキレイだよ」  このへんで大抵の女は、口から泡ふいてぶっ倒れそうな顔になるんだ。  だから、最後の一押しさ。 「そうだ。お姉さん、せーめーほけんっていうのに入ってる? このあいだ、お父さまが夜中にひとりでぶつぶつ言ってたんだ。『加入一年未満の自殺じゃ保険金は下りないから、何かほかに手はないか』……とか、なんとかって。せーめーほけんっていうのに入ると、手がいっぱい生えてくるの? 宇宙人みたいだね。だったらぼくも入りたいな!」  そしたら、いーいタイミングでインターホンが鳴ったんだよ! 「あ、誰か来た。保険屋さんかな?」 「ご、ごめんなさい、悠理くん! わたし、用事を思い出したの。お父さまによろしくねッ!!」
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