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「バッカじゃねーの!? 朝から晩まで仕事シゴトで、月の半分は会社に泊まり込んでるお父さまが、どーやったら十人も恋人作れるっていうんだよ。ちょっと考えりゃ、わかることじゃん!」
二十人はまとめて食事ができそうなばかっ広いダイニングルームで、たったひとり、テーブルについている少年は言った。
「じょーだんじゃないね。あんなバカ女、絶対この家に入れてやるもんか!」
「そうやって今までに何人、お父さまの再婚相手を追い出してしまわれたんですか?」
炊きたての豆ご飯を茶碗によそいながら、美晴(みはる)は苦笑した。
「坊ちゃまの七才の誕生日までに若くて美人で優しいお母さまを連れてくるっていうお父さまのお約束は、本当のことなんでしょう?」
「うん。まあね……」
少年――高幡(たかはた)悠理は少し拗ねたような顔をして、そっぽを向いた。
「あと一ヶ月で誕生日だよ、ぼく」
「そうですね」
「お父さま、約束守るためにあせってんじゃないのかな。だからあんなバカ女ばっか連れてきて。どいつもこいつもVTRみたいに同じことしか言わないんだ。『仲良くしてね、悠理クン。今までお母さまがいなくて、淋しかったでしょ。ワタシをママと呼んでもいいのよ』――ふッざけんなっての!!」
悠理は腹立ち紛れに、がつんと一発テーブルを蹴り上げた。あさりのおみそ汁がひっくりかえる前に、美晴はぱっと汁碗を救出する。
「チチが牛並みだからって、頭の中身まで牛並みかよ! どんなに若くて美人でも、ぼくが気に入らない女はみんな追い出してやる!」
「はいはい」
「おまえもだぞ! 千恵(ちえ)さんの孫だかなんだか知らないけど、ぼくがその気になったら、おまえなんかすぐに追い出せるんだからな!」
「はいはい。じゃ、その前に晩ご飯食べちゃってくださいな。はい、坊ちゃんの好きな豆ご飯に出汁巻き卵」
ほわんとたちのぼる炊きたてご飯の良い香りに、さすがのわがまま坊主も一瞬黙った。
「それに、あたしを追い出したからって、おばあちゃんはすぐには戻ってこられませんよ。ギックリ腰で十日は安静が必要なんですから」
「……千恵さん、そんなに具合悪いの?」
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