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「えー、つまり、お子さんのいたずらでご両親が家を閉め出され、一晩外で過ごされた、と。朝になったら、お子さんがアイロンをいじって火傷をしてたので、思わず物干し竿で窓ガラスを割って、室内に飛び込んでしまった――と、まあ、そういうことですね?」
「はい……。すみません。すみません」
「本当にご迷惑をおかけいたしました。申し訳ありませんでした」
窓を割ってからものの数分で駆けつけてくれたセキュリティ会社の警備員、そして早朝鳴り響いた警報に驚いて集まってきた近所の住民たちに、史彦と美晴はひたすら頭を下げ続けた。あっちにぺこぺこ、こっちにぺこぺこ、頭を下げすぎてくらくらしてくるくらいに。
「まー……、とりあえず何事もなくて、良かったですね。お子さんのお怪我は大丈夫ですか?」
「はい。これからかかりつけの病院に連れていきます」
室内に飛び込んで、美晴は真っ先に悠理の火傷の具合を確認した。
悠理の腕は薄赤くなっているが、それほど酷いことにはなっていないようだ。濡らした布で冷やして、念のため医者に診せれば、おそらく数日で痕も残らなくなるだろう。
火傷の痛みよりも、むしろびっくりして大声をあげて泣きわめいてしまった悠理も、今は小さくしゃくりあげるだけでだいぶ落ち着いている。
「それから、ボクも。もうこんないたずらしてパパとママを困らせちゃだめだぞ」
「はい。ごめんなさい――」
警備員のおじさんに優しく諭されて、悠理は泣いて赤くなった顔を隠すようにうつむきながら小さな声で返事をした。
「では、ことの経過は本社に報告いたしますので、ご了承ください」
「よろしくお願いします。本当にお手数をおかけしました」
警備員と近所の人たちを、何度も何度もお詫びしながら門のそばまで出て見送ると、史彦と美晴は同時にはあーっと大きくため息をついた。
「もー……。だめですよ、坊ちゃん。おねしょのシーツはアイロンで乾かしたりしないで、ちゃんとお洗濯しなくちゃ。お布団も外に干しましょうね」
「うん……」
悠理の前に両膝をつき、その顔を見上げるようにして、美晴はにこっと笑いかけた。
「大丈夫ですよ。おねしょくらい、誰だって経験あります。心配しないで。これからはちゃんと寝る前にトイレに行きましょうね」
悠理は恥ずかしそうに小さくこくんとうなずいた。
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