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「え……。え、ぷろ、ぽー……て、え――えええっ!?」
「お父さまも! 美晴が天然ボケなのはわかってるだろ、こういうヤツには、少女マンガみたいなロマンチックな言い方したってダメなんだよ! もっとはっきり、ストレートに言わなくちゃ!」
「そ、そうなのか?」
「そうだよ! ほら、やり直し!」
悠理が大きく手を振り、さあやれ、というように美晴を指さした。
「美晴さん!」
史彦がまっすぐに美晴の前に立った。まるで成績表を手渡す教師みたいに。
「俺と、結婚を前提にお付き合いしてください!」
「えっ、その、そんなっ、あたし、あたしなんかで……」
「美晴ももっとはっきり返事して! そんなんじゃ、なに言ってんだか全然わかんないだろ!」
「はいっ! よろこんで!!」
美晴も思わず背筋を伸ばし、キヲツケッ!の姿勢で答えてしまった。
――プロポーズ? これが!?
いや、結婚の申し込みであることには間違いない。そして、それを自分が承諾したことも。
――でも、なんか……、なんか違わない、これ!?
「なんだよ、それ。全然ダメじゃん。そこは『ふつつかものですが、よろしくお願いします』だろ!?」
「は、はい。ふつつかものですが……」
――ちょっと、待て。
なんでこんなに、子どもの言いなりになっていなくてはいけないのだ。それも、これほど重大な人生の岐路で!
「いい加減にしなさい、悠理!」
ついにお父さまのカミナリが落ちた。
「はーい、ごめんなさーい!」
悠理はしらじらしく謝った。
だがその謝罪の言葉も終わらぬうちに、あかんべーっとやってみせる。
「まったく、全然ダメじゃん。ふたりとも、ぼくがいないとなーんにもできないんだから!」
「悠理っ!」
「もう、この、悪たれ坊主!」
達者な憎まれ口へのお返しに、美晴は悠理を掴まえ、ぎゅうっと抱きしめた。
きゃっきゃと笑いながら悠理が暴れ、逃げようとしても、おかまいなしにぎゅうぎゅう抱きしめる。すべすべのほっぺに自分の頬をおしあて、悠理の笑い声を身体全体で受けとめる。
さらにその上から、史彦が長い腕を伸ばして美晴と悠理を一緒に抱きしめた。
そう。史彦と悠理のふたりだけでは、互いに伝えきれない、埋め切れないものがある。
同じように美晴と史彦だけでも足りない。そこに悠理がいなくては。
みんな、少しずつ足りないものがあって、それを互いに補い合い、支えあっていく。
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