第1章

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 さいわい、家事には自信がある。この道四〇年、超ベテラン凄腕ハウスキーパーのおばあちゃんは、暇を見てはその技術のすべてを孫娘にも伝授してくれていた。  ――ここまで悪いことが続いたら、あとはもうなにが起きたってかまうもんかい! 矢でもテッポーでも持ってこいってんだ!  とりあえずの着替えをバッグに押し込み、美晴は鼻息も荒く高幡家に乗り込んだ。  築百年近い見事な数寄屋造りの大邸宅で美晴を待っていたのは、このクソ生意気な悪ガキひとりきりだった。  いや、悠理の見てくれは確かに可愛い。さらさらの黒髪に、あどけない中にも凛としたものを秘めた顔立ち、ぴんと糊のきいたシャツにVネックの白いセーターがよく似合って、これぞ良家のご子息といった姿だ。七五三の羽織袴姿はそのままケースに入れて飾っておきたいくらいだったというおばあちゃんの感想も、うなずける。 「――いただきます」  口は悪いが、さすがにお坊ちゃま、行儀は良い。ぺこりとひとつ頭を下げて、悠理は箸を取った。豆ご飯を口に運んで、 「千恵さんが作ったのと、同じ味がする……」 「そりゃ、あたしの料理の先生はおばあちゃんですからね。ポテトサラダとクリームコロッケもどうぞ。こっちは旦那様のお好きな筑前煮です」  好物が次々に食卓に並ぶと、悠理の悪態も止まった。 「旦那様と坊ちゃまのお好みは、みんなおばあちゃんから聞いてます。食べたいものがあったら、なんでもおっしゃって下さい」 「じゃあ……あれは作れる? 三色のおはぎ。あんことごまと、きな粉のやつ」 「はい。明日のおやつはそれにしましょうか」 「コーンシチューは? 天ぷらは? ニンジンはちゃんと、片側にいっぱい切り目が入ってないとダメなんだぞ!」 「はいはい。櫛みたいな飾り切りでしょ。あの形にすると、良く火が通ってニンジンが甘くなるんですよね」 「それから、おいなりさんは赤と緑の水玉で――」 「酢飯に紅ショウガと青菜の漬け物を刻んで混ぜ込むんですよね。あたしも、運動会や遠足のお弁当はいつも水玉おいなりさんでした」 「ふ、ふん!」 「しいたけを残しちゃいけません。好き嫌いしないで、ちゃんと全部食べてください。でないと、デザートのアイスはおあずけですよ!」  台所を片づけ、みごとなタイル貼りの浴室を掃除すると、時計の針はすでに十時半を回っていた。 「ひえー……。こりゃたしかに大変だ」
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