第1章

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カウント ブラック(天井の家) 第一章 夏近し霊騒ぐ    家業霊能者、自称高校生詐欺師、黒井典史(くろいてんし)。  俺は夏が近づくと、憂鬱になる。何しろ、俺は家業霊能力者なのに霊が見えないし、聞こえない。一般の皆さんが、見た見たと騒ぐ中、俺は相変わらず全く霊が見えないのだ。  でも、俺の夢は、田舎で農家をしながら、自然を見て暮らすことだ。家業の霊能力者には絶対にならない。そう、思っていても、夏になると憂鬱になる。  前の席の荒川が、幾度目かの俺の溜息で振り返った。 「あのさ、頼みがあるのだけど」  俺に来る頼みには、ろくなものがない。 「姉が結婚して新居に移ったのだけど、その近所に変な家があって」  やっぱり、ろくな頼みではなかった。俺は基本的に、霊が見えないことを自覚しているので、霊能力者の祖母と母の手伝いはしても、自分では仕事は引き受けない。 「その家、留守でも、カーテンが開いたり、ドアの開く音がしたりするから、泥棒かもって姉が警察に電話したのだけど、何もなかった」  しかも、警察もウンザリするほど、その家の件で電話がかかってくるのだそうだ。荒川の姉の時も、またかと言われたそうだ。 「姉が可哀想なくらい怖がっていてさ。でも、相談できる相手なんて、そう居ないし」  ベランダを歩いて、御形が俺の隣に来ていた。この御形 志信(ごぎょう しのぶ)寺の息子で霊が見える。 「黒井、彼氏来たぞ」 「御形は、彼氏でもなければ、友人でもない」  でも、何だかよく分からない内に、俺は御形の家の居候になっていた。つまりは、御形と同居している。一緒の朝食や夕食を食べ、部屋は隣だ。 「黒井、引き受けてやれよ」  近隣にファンクラブまである、御形の爽やかな笑顔が炸裂していた。クラスの女子が、皆こっちを見てざわついている。御形、外顔はすこぶる良いが、中身はブラックな性格だ。俺に対しては、脅しもするし、騙しもする。 「あのな、御形。俺、問題ありだろ」  御形は、俺が、霊が見えない事を知っている。 「だいたい黒井、荒川に嫌われたら、誰が休憩の度に眠っている黒井を起こす?他に友達居ないだろ、黒井君」  俺、完全に御形にいじめられている。確かに、荒川には世話になっている。かといって、霊能力者にあってはならない俺の欠点、霊が見えないでは、場所を特定できない霊に対応できない。
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