第1章

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 でも、霊能力者の家という肩書なのに、気にしないで接してくれたのは、荒川だけだった。 「分かった、荒川。住所教えて。多分、行くのは、明後日の土曜あたりかな。俺、他の仕事あるし、二時間くらい見てみる」  御形が、ニヤリと笑っていた。  帰宅前、荒川が丁寧に描かれた地図と、住所のメモを持ってきた。学校を出ると、駅までの歩きながら、荒川から貰った地図を確認する。  荒川から貰った住所のメモは、ここから四十キロほど離れた場所だった。メモをポケットに入れると、御形が近寄ってきた。  同じ家に住んでいるので、当然、同じ方面に帰る。電車の到着を待つホームで、いつも一人で居る俺に、近寄ってくるのは御形しかいない。  そもそも、霊能力者の家の俺は学校でも敬遠されていて、近寄ってくる人物はすこぶる少ない。 「住所、教えて」  人が多いと、にこにこしている御形だが、人が居なければ、メモを脅して取り上げて勝手に見ていただろう。 「嫌だ」 「俺にお願い?はないのか」  霊が見えるだけならば、他にも心当たりがある。御形には頼まない。 「蓮の所でバイトする代わりに、手を貸してくれと頼むつもり」  春日 蓮(かすが れん)占い師で、裏稼業お祓師。俺と蓮は、一緒に修業した仲間だった。 「ふうん」  御形が、超不機嫌になっていた。俺に、お願いされたいがために、まさか、引き受けろと言ったのではないか。こいつならば、やりかねない。  電車に乗っても、御形は口を開かずに不機嫌のままだった。  駅に到着すると、御形には迎えの車が来ていた。御形の家は山奥にあり、とても歩いて帰れる場所ではない。御形の家は、駅まで当たり前に送り迎えしていた。 「黒井、乗らないのか?」  黒塗りの高級車で、御形が手招きしていた。 「俺、自転車だから」  修業と、体力強化のために、駅からは自転車にしている。 「自転車、車に乗せて一緒に帰らないか」 「断る」  俺は、自転車に跨り走り出した。ここから、御形の家までは、十一キロある。その殆どが、登り。途中の公園で、学生服から、自転車に括り付けておいた、スポーツウェアに着替えてひたすら登る。  汗が地面に滴り落ちるが、上に行く程、吹いてくる風が気持ちいい。御形の家に到着する頃には、全身汗で濡れていた。 「典史ちゃん、おかえりなさい」
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