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御形の母が、にこにこしながら夕食を作っていた。御形の家は、六人家族で、御形の両親、御形の姉と弟、祖父が住んでいる。
「ただいま戻りました。本日は、夕食後、母の手伝いで仕事に行きます。帰宅は、深夜一時の予定です」
「はいはい」
霊能力者の母の仕事を手伝う。祖母と、母には借りがあって、俺は出来る限り、仕事を手伝っていた。
「典史ちゃん、でも、あまり無理はしないでね」
御形の母は、おっとりしていて料理上手だが、約束を破ると鬼のように怖い。
「無理、してしまうのですよね、つい。祖母と母が居なかったら、俺、従兄殺してしまいそうだったし」
俺がしてしまった罪。俺は、三歳の時に自身の能力で死んだ人を実体化してしまった。実体化してしまったのは当時行方不明になっていた叔父、叔母はその人との子供を産んだ。その子供、従兄は、実体化し続けないと、溶けて消える。祖母も母も、全力で従兄を守っている。
「それは黒井のお母さんから聞きました。でも、典史くんがそのことで、泣いているのが辛いとも言っていますよ。泣いてばかり居ないで、時には笑って!」
「泣いていません…」
御形の母、マイペースだがとても強い。
「早くお風呂に入って。汗だくよ」
御形の家の風呂は、ちょっとした温泉宿のようだった。来客が多いので、大きい風呂を用意したのだそうだ。
時間により、女性用と札が掛けられている時もあるが、今はその札も無かった。着ていた服を、洗濯機に入れながら、風呂場に入ると、先客が居た。
「御形、居たの?」
広いので、気にはしない。御形の祖父や父とも、よく風呂で会う。
「黒井、お前、仕事だ、仕事だと殆ど家に居ないじゃないか」
湯船から、御形が半身を乗り出した。
「ゆっくりする時とか無いのか?」
思い出す限り、ゆっくりとした記憶はない。
「ずっと、こんな生活してきた。夕食と、朝食を決まった時間に食べるようになっただけでも、すごくまともになった」
「一緒に住んでいるのに、ちゃんと話をする時間も無いなんて思わなかったよ」
御形は、俺と話す時間をいつも用意しようとしている。俺は、それを分かっていて、避けているのかもしれない。
「嫌ならば、出て行こうか?俺。従兄の恭輔の実体化が最近安定しないし、少し一緒に暮らそうかと思っている」
御形が、顔を背ける。
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