視えてる俺と浮いてる君と

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 俺、鬼灯(ほおずき)には実は、ある秘密がある。 「――で、旦那さんが浮気相手を取ってあなたを捨てた、と」 「えぇ、そうなのよ。旦那ったら、花の一輪も寄越さないんだから、最低よね」  俺の向かい側でクッションに姿勢正しく正座した女性が「はぁ」とため息を吐く。 「でも、その旦那さんも見る目ないんですね、奥さんすっごい綺麗ですよね」 「あら、お上手だこと」 「それになんか気品があるし」 「うふふ、ありがとう」  俺がそう褒めちぎると奥さんは嬉しそうに微笑んだ。その笑顔も可憐という言葉がよく似合っていて、とても男の人に捨てられるようには思えない。 「やっぱり旦那さんの方が見る目なかったんですよ」 「そうね、そうかも知れないわね」 「それにあっちにはたくさんいい人がいると思いますよ?」 「ありがとう。じゃあ、わたしもそろそろ逝こうかしらね」 「えぇ、じゃあ、お元気で」 「ありがとうございました」  ぺこり、と上品にお辞儀をして女性はスゥーと消えていった。  そう、消えたのだ。 「……ふぅ、疲れたぁ」  俺の秘密。それは言うまでもなく、普通の人には見えないモノが視えること。  つまり、視えるのだ、俗に幽霊と呼ばれるものが。  昔っから幽霊が見えるせいか、俺はそーいうものにすっかり慣れているのだ。  というより、むしろ世間一般が思い込んでいる幽霊像を考えるとむしろ幽霊に同情心すら湧いてくるのだ。  だって、世間一般での幽霊像と言えば、血まみれだったり青白かったり、「恨めしやぁ」って感じなんだけど、俺が出会った幽霊達はそんなものとは反対だった。  たとえばさっきの綺麗な奥さん、旦那さんが奥さんを捨てて浮気相手と逃げたらしく、絶望した奥さんは早まってしまった、というわけだったが、すごい美人だった。  なんでも華道と日本舞踊の教養があるらしく、常に和服で艶のある黒髪を結わえていた。  ……正直、マジで美人だったんだけど。 「はぁ、世の中何があるか分からねーな」  せめて、天国では幸せになってほしいなぁ…… 「っと、もうこんな時間か」  俺はケータイを見てすでに時刻が午前二時であることに驚いた。
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