怪盗レイニーデイズ

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 サン=ミゲル。大陸から孤立した小さな島、あるいはそこに建つ街を指し示す名。  そこは近年の異常気象による潮の満ち引きにより、大陸へと繋がる道はおろか旧市街と呼ばれている、今ではゴーストタウンと化した地域すらもが海の下に水没してしまうような場所だ。  そんなサン=ミゲルを最近、一人の女怪盗が、賑わせていた。  名をレイニーデイズ。  ……と言っても彼女のそれは怪盗というよりは泥棒に近いところがある。どちらにしても窃盗行為である以上、警察からは厄介者扱いをされているが。  彼女の所業は商店から飲食物を盗んでは、それを恵まれない貧民層の住人やホームレスに施す、と言った義賊的なもの。そのせいか、貧民層出身の人間からはむしろ彼女を擁護するような動きすらあって警察は中々彼女を捕まえられずにいた。  そして今日もまた、それは起きていた。 「待ちなさいレイニーデイズ!」 「はっはっはっ! 『待て』と言われて待つ奴は犬ぐらいなんだぜ?」  商店街の賑わいがだいぶ落ち着いた昼過ぎ。二人の少女がそんなやり取りを繰り広げていた。  一方はドロワが見えるのも構わず、スカートを大きくたくし上げながら快活な笑い声を響かせる怪盗レイニーデイズ。ちなみに彼女がスカートをたくし上げているのはスカートを袋のようにしてありったけの林檎を詰め込んでいるからである。  そしてその背中を追うのは若くして警部の座にあるアリス。  彼女は常にレイニーデイズを捕まえようとしているのだが……結果は今も彼女がレイニーデイズを追っていることからも明らかだろう。 「ま、待ちなさいったら! ――きゃっ!?」  ズダーン!  そんな激しい音が聞こえそうな勢いでアリス警部が派手にすっ転んだ。 「警部!? だ、大丈夫ですか?」 「う、うぅ~~」  転んだ警部を気遣うのは彼女達の足の速さについていけなくなっていた部下、リデル。  アリスはすっかり赤くなってしまった鼻を押さえながらもその視線を前へ――今は軽い身のこなしで建物の屋根へと登ったレイニーデイズへと向けられていた。 「警部ももうちょっと頭を使ったらどうなんだい? 不思議の国(ファンタジー)のアリスはもっと賢いぜ?」 「う、うっさいわね! そこで待ってなさいすぐにとっ捕まえてやる!」 「け、警部!」
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