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俯くアリスの表情はその絹のように滑らかな髪に隠れて窺い知ることが出来ない。
一体どうなるのか、それを怯えて待っていたリデルにアリスは意外にもニッコリと満面の笑みを浮かべたのだった。
なんとか許されたらしい、とリデルが安堵に胸を撫で下ろ
「グーとパー、どっちがいい?」
そうとした直後にそんな言葉と共に少女には似つかわしくない、力のこもった握りこぶしがリデルの顔面を襲ったのだった。
見事なまでに八つ当たりすぎて正直、リデルは泣きたくなったのは言うまでもない。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
アリス警部が怪盗レイニーデイズにこだわる理由、それを知っている者はまったくいない。
しかし、その理由を何とはなしに察している人間と言う者は意外なほどに多い。
その真意までも察しているのかは別として。
「今度こそあの子を真っ当な道に進ませなきゃ」
あの事件の後、仕事を終えたアリスは一人で生活している部屋の中でそんなことをぼやいていた。
「なんでいっつもバカなことばっかりするのよ。おかげでいつも私が苦労することになっちゃうでしょ」
その口調からは彼女がレイニーデイズのことを少なからず知っていることが窺える。いや、彼女に関していえば「少なからず」と言ったどころの関係ではない。
「何がレイニーデイズよ。いつまで子供の時のごっこ遊びを引きずってるのよ」
この場合、それに躍起になって付き合っている彼女も彼女なのだが、一人暮らしの彼女にツッコミを入れる住人は誰もいない。だから、
「マリーのバカ」
ぽつりと零された誰かの名を聞いた者も当然いなかった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「はっはっはっはっはっ! 怪盗レイニーデイズ、ありがたくパンを頂いた!」
そして今日も今日とてレイニーデイズが商店街を騒がせていた。
今日はどうやらパンを盗んだらしい彼女は袋から飛び出しているバゲッドの匂いをすんすんと嗅いでは「焼きたての良い匂いだぜ」と満足げに口元を綻ばせていた。
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