638人が本棚に入れています
本棚に追加
「言っておきますが、何をしても、私はあなたの思い通りには動きませんから」
「別に、かまわないさ。君が動かずとも、あいつが動くだろうから」
「な……?」
「惚れた女が辱めを受けたなどと、あいつには、死んでも、絶対公表できまい。恐らく、どんな条件でものむはずだ」
――そんな、バカなこと、
あるわけない。
私は、ただ、あの人のために何かしたくて。
少しでもいいから、力になりたくて。
なのに。
「例えば、谷田部の後継者の座から、自ら退く――とかね」
――ああ……。
自分の推理の正しさを知ったところで、喜びなど、欠片も湧くわけもなく。
こみ上げる、悔しさと不甲斐無さで、涙がにじんだ。
でも、泣くものか。
絶対、泣いたりしない。
最初のコメントを投稿しよう!