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――隙を見て、逃げてやる。
あの人の、足かせにだけは、なりたくない。
力で敵わないなら、知恵を回せ、梓。
ギリギリのところで自分を叱咤して、私は、全身の力を抜いた。
それこそ、頭の天辺から足の先まで。
ガクリ、と、膝が下に落ちる。
「おおっと、危ない」
そのまま、私を放り出すなり、諸共倒れるなりしてくれればいいものを。
「ケガなどされたら、こちらに不利だからね。気を付けてくれよ」
クスクスクスと、
私の魂胆など、見透かしたように笑いながら、期待に反して、敵は、私を抱き込んで、軽々と抱え上げた。
いわゆる、『姫だっこ』状態だ。
完全に、墓穴を掘った。
これでは、向うずねを、蹴飛ばすこともできやしない。
でも、その代わり、利き手の右腕がフリーになった。
チャンス、到来。
すかさず、へばりついていた体を押し退け、引きはがしにかかる。
「くっ……うっ」
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