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「ふぁ…」
思わず出てしまったあくび。
ホワイトボードの前で熱弁を奮っていた部長にジロリと睨まれた。
社長や専務も出席している会議だけに、部長もその場では何も言わない。
ただ、後でたっぷりと説教されるのは間違いない。
お互いに公然と認めているが、俺と部長は仲が悪い。
部長からすれば、自分が苦労を重ねてようやく昇り詰めた地位に、まだ若い俺がトントン拍子であと一歩の位置まで駆け昇ってきたのが面白くないのだろう。
ちなみに俺の役職は課長。実質的には俺が部長で部長はお飾りだ。
俺があくびをしてしまったのは、今、部長が熱弁を奮っている資料を作るのに徹夜したから眠くて仕方ないのと、内容と結果が判っているからだ。
事業部の連中も、実質的な業務責任者が誰かを知っている。
実のところ、社長や専務も判っている。
本当は自主的に部長に辞めてもらいたいがそうもいかない。そんなところだ。
会議は恙無く終わった。
新商品の企画は通り、これから実質的に展開していく。これがうまくいくと、事業部は二つに分離され、俺が第二事業部の部長になる。今回は俺が抜けた後の事業部に仕事を造り出すのが裏の目的だ。
「田中、ちょっといいか?」
会議が終わり、社長たちが退出した後、部長が声をかけてきた。
「何でしょうか?」
俺は惚けながら返事をした。判っている。さっきのあくびの説教だ。
弛んでいるとか、緊張感が足りないとか、まぁそんな言葉がタラタラと続くだろう。
席に座り直す俺の横に部長が座る。
「田中、今日は相談があるんだ」
「はい?」
俺は思わず変な声を出してしまった。
部長が俺に相談とは、予想外過ぎた。
「お前、半年後にクビになるぞ」
「はぁ!?」
「専務はお前が嫌いなんだ。俺はお前が有能だと判っているから、お前にいろいろ言ってきた。今回の企画は罠なんだよ」
「何を言ってるんですか、この企画は…」
「事業部を分割するって話だろ?嘘だよ」
「そんな…」
「社長はお前を気に入っているが、専務はお前が嫌いだ。さて、そこで相談だ」
五年後。
俺は事業部の部長。そして部長は専務。前の専務は退社した。
理由は俺と部長だけが知っている。
俺は会議で熱弁を奮う。
部下の若造があくびをした。
俺は…ジロリと睨んだ。
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