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夏月はガラス玉のような眼をして、ぼんやりと天井を見上げていた。
身体の上では、見知らぬ男がぎくしゃくと動いている。
少し視線をずらせば、薄くなった髪や脂ぎってべたべたした肌、たるんだ顎に浮くまだらの無精ひげが視界に入る。
それらを見ているのが嫌で、かと言って眼を閉じると男に何をされるかわからない恐怖があり、天井ばかりを見つめているのだ。
男は夏月の胸を掴み、脚を持ち上げ、裏返し、身体中をべちゃべちゃ舐め回した。
そして股間の醜悪なものを夏月の中へ押し込み、息を荒げながら身体を揺する。
狭い部分を無理やりに押し広げられ、ぎしぎし擦られる痛みにも、もう慣れた。
――こんなことが気持ちいいだなんて、みんなどうかしている。
白く濁った脳裏に、そんな思いがかすめる。
SEXなんて、男が勝手に欲望を吐き出すだけのこと。
別に相手が夏月でなくても、彼らは一向に気にしない。女の形をした肉の塊があれば、それで満足なのだ。
男がうめく。まるで牛の歯軋りだ。
じっとりと全身に脂汗を浮かべた、男の身体。
肌が触れ合うだけでも気色悪いのに、男の荒い呼吸が耳元にかかる。
煙草とアルコール臭の混じった生臭い息に、おぞましくて鳥肌が立つ。
その臭いは、いつも夏月に遠い昔を思い出させる。
「いい子だ、夏月。おとなしくしてろよ。母さんには言うんじゃないぞ」
――あの時も、そうだった。
怖くて気持ち悪くて、声を出すこともできなかった。
あれはいつのことだったろう。
中学生、小学生――いや、もっと昔?
「ちょっと我慢してろ。そしたらまた、好きなもの、何でも買ってやるからな」
粘ついた声でそう言って、夏月を暗い小部屋に連れ込んだのは、湿った畳の上に押し倒したのは、あれは誰だったろう?
やがて身体の中に生ぬるい何かがぶちまけられるのを、夏月は感じた。
重たい男の身体がどさりと降ってくる。
ぜいぜいとうるさい呼吸が耳元にかかった。
最初から最後まで、夏月はただぼんやりと天井を見つめているだけだった。
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