15人が本棚に入れています
本棚に追加
´
寒い日本を離れて、
パリに降り立ってから半年が経ち、
パリには初夏の薫りが若葉と共に眩しく漂った。
志津子の身の回りは、全てが順調だった。
日本でモデルをやっていた時の社長やお偉いさん方が、
親切に一切合切を仕切ってくれたのだった。
お陰様で、一番の心配の種だった画一の学校の事も無事一段落して、
画一は毎日を元気に通っている。
今の志津子にとっては、
画一の溌剌(はつらつ)とした笑顔こそが、何よりだった。
それに驚くべきことは、画一の語学力だった。
片言ながらも、もぅ友達と対等に交えているのだった。
「ぅふふ……
絵一さんって、こんなに器用だったのかしら……」
志津子は、時々にはセーヌ川のほとりに、独り佇むことがある。
「……ここだったわね。
清二がわたしに振り返って言ったのよねぇ……。
『ボンジュール志津子……。
やはり俺は死ぬことにしたょ』
って……。
いま考えてみて……
いったい、何の意味があったのかしら。
ただ分かっていることは……
わたしの哀しみがひとつ増えただけなんだょ……
清二さん……」
そうして志津子はゆっくりと腰を降ろすと、
赤くて長いひとときの夕映えを見上げた。
`
最初のコメントを投稿しよう!