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「あ、この写真を使いましょうか?
ミユキさんが後頭部から写っていて、リューマさんが鏡越しに微笑んでる……」
吉川さんが私の不機嫌な様子を察知して、柔らかい口調で写真を指差した。
「ええ……それなら……」
そう応えながら、
私の撮影は今後一切引き受けないと
心に決めた。
「ミユキ、こっちむいて! 自然な笑顔を作るコツを教えてあげるから」
口元が笑ったままのリューマに肩をガッシリ掴まれて、リューマと向かい合い
リューマは私のホッペを両手で摘まんだ。
「カメラを、気にしないでいられるのが一番なんだけど……
あいうえおの『いー』って声出して。」
リューマに言われるがまま『いー』と言ってみる。
「口角が自然と上がるでしょ。写真映る時は『いーいーいー』って言ってればいいんだよ。」
リューマが自然な笑顔の作り方を伝授する。
「へぇー、さすがリューマさん、映り方のコツよくご存知ですね。」
吉川さんが感嘆の声を出す。
えー、ホントにそれで自然な顔になるのかな。
「……私、もう写真に写らないからいいよ」
ひねくれてしまった私はソッポを向いた。
それを見たリューマは深く溜め息を吐き出す。
「すぐ諦めるの、オレきらい」
リューマは私の頬をギュッと摘まんでパッと離した。
「いたっ」
今度はリューマが不機嫌になってしまった。
私はリューマみたいに何でも器用にこなせないよ……。
吉川さんが私達の不穏な空気を変える様に口を開いた。
「えーと、起用する写真は決まったのでキャッチコピーを考えたいのですが、
一応広告のコンセプトは、メンズのお客さまも取り込んでいきたいという主旨もあって……」
吉川さんは企画部のスタッフを見渡すように話を進める。
「ヘアデザインも男女問わず幅広くお客様に提供していく事をアピールしていきたいのですが」
リューマは元売れっ子タレントだったのもあり、新しいリューマのヘアスタイルでPOPを出せば、同じスタイルのオーダーが増えて、広告効果は絶大の反響だった。
リューマの人を惹き付ける魅力を少しでも分けてほしい……。
きっと人の目に触れる仕事が天性なんだろうな。
隣に座ってるリューマをチラ見すると、
眉間に僅かにシワを寄せて、マジメにキャッチコピーを考えている様子だった。
リューマの人を魅了してしまう横顔は美しい。
そして何事も、真剣に打ち込むリューマが好き。
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