第1章

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「あ、この写真を使いましょうか? ミユキさんが後頭部から写っていて、リューマさんが鏡越しに微笑んでる……」 吉川さんが私の不機嫌な様子を察知して、柔らかい口調で写真を指差した。 「ええ……それなら……」 そう応えながら、 私の撮影は今後一切引き受けないと 心に決めた。 「ミユキ、こっちむいて! 自然な笑顔を作るコツを教えてあげるから」 口元が笑ったままのリューマに肩をガッシリ掴まれて、リューマと向かい合い リューマは私のホッペを両手で摘まんだ。 「カメラを、気にしないでいられるのが一番なんだけど…… あいうえおの『いー』って声出して。」 リューマに言われるがまま『いー』と言ってみる。 「口角が自然と上がるでしょ。写真映る時は『いーいーいー』って言ってればいいんだよ。」 リューマが自然な笑顔の作り方を伝授する。 「へぇー、さすがリューマさん、映り方のコツよくご存知ですね。」 吉川さんが感嘆の声を出す。 えー、ホントにそれで自然な顔になるのかな。 「……私、もう写真に写らないからいいよ」 ひねくれてしまった私はソッポを向いた。 それを見たリューマは深く溜め息を吐き出す。 「すぐ諦めるの、オレきらい」 リューマは私の頬をギュッと摘まんでパッと離した。 「いたっ」 今度はリューマが不機嫌になってしまった。 私はリューマみたいに何でも器用にこなせないよ……。 吉川さんが私達の不穏な空気を変える様に口を開いた。 「えーと、起用する写真は決まったのでキャッチコピーを考えたいのですが、 一応広告のコンセプトは、メンズのお客さまも取り込んでいきたいという主旨もあって……」 吉川さんは企画部のスタッフを見渡すように話を進める。 「ヘアデザインも男女問わず幅広くお客様に提供していく事をアピールしていきたいのですが」 リューマは元売れっ子タレントだったのもあり、新しいリューマのヘアスタイルでPOPを出せば、同じスタイルのオーダーが増えて、広告効果は絶大の反響だった。 リューマの人を惹き付ける魅力を少しでも分けてほしい……。 きっと人の目に触れる仕事が天性なんだろうな。 隣に座ってるリューマをチラ見すると、 眉間に僅かにシワを寄せて、マジメにキャッチコピーを考えている様子だった。 リューマの人を魅了してしまう横顔は美しい。 そして何事も、真剣に打ち込むリューマが好き。
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