第1章

5/13
前へ
/13ページ
次へ
この世界へ来て、早3ヶ月。 俺はなんとなく、馴染んでいた。 今は、あの時と同じ。夕暮れに包まれていた。 優しく鳴る風の音に、幼稚な声が重なる。 「ガンちゃ~ん。何してんの~?ぼーっとしちゃって~。」 「ん。なんでもない。」 ベランダであぐらをかいて座り、夕暮れの空を眺めている俺に、 俺のーーーーガールフレンド。 ネガ・シーナことシーナが、 さっき食った夕食の皿を拭きながら話しかける。 シーナ。 目はぱっちり、髪はさきの方が少しウェーブがかった金髪。細身で華奢。 そして、ーーーー小さい。 俺の身長は170㎝とごくごく標準だが、シーナはおそらく140くらいしかない。 この身長で、俺と歳が変わらないとはーー。 俺が返事を返すと、 ぶーっと頬を膨らませ、そそくさと任務に戻る。 戦闘服はーーエプロンだ。 そして。 シーナの能力。 家事をするにはうってつけ。 最初は驚いたが、目が慣れた。 シーナの能力。それはーーー。 足がとんでもなく速いのだ! 電光石火の如く家事をこなしてゆく。 皿を拭き終わり、それを片付けたと俺が認識した頃には すでに廊下の雑巾掛けをしている。 それもとてつもないスピードで。 そんな日常的な風を背に受けながら、俺は物思いにふける。 この世界。 3ヶ月前、学校から突然大空へワープし、しばらく絶叫したのち顔面強打。 かなり痛かったがなぜか怪我すらしなかった。 強打した顔面をさすった後、目の前に広がった光景に、驚きと… なぜか安堵を覚えた。 この世界。 シーナから教えてもらったこの世界の名は、「理想郷(アガルタ)」。 俺から言わせれば…ファンタジー世界そのものだった。 初めてこの世界を見たとき、そう思った。 当たり前のように妖精やドラゴンが大空を飛び、街が宙に浮いていた。 「なんだ…ここ。」 と、ごくごく一般的な言葉を口にした事と… 何故だかは分からないが、 安堵を覚えたのを…覚えている。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加