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押し殺してはいるが、漏れ聞こえる泣き声。
エリアボスという重責に余程恐怖でも感じたのか、妖精さんは溢れ出る感情に苛まれ、悲痛な声をあげる。
「…………なんで、私ばっかり……っ、私はただ……、静かにお父さんとお話ができれば……それでよかったのに」
膝を折りたたみ、両手で顔を覆い、あまりにも小さくなりすぎて、もはや丸い塊になってしまった妖精さん。
僕が隣であわあわしていると。
「…………やだ」
突然、妖精さんはぱっと勢いよく腕を振り出し、足を伸ばし、丸の状態を解除する。
そして相対する彼女の――――ククノチさんの目をキッと見つめ、言い放つ。
「…………やだ、……やだやだやだ! 行かない!」
ほっぺを赤くして。
泣きべそをかき。
若干鼻をたらし。
ぐしゃぐしゃになった顔で妖精さんは、言い切る。
「お父さんと一緒にいるんだもん!」
妖精さんは、鼻息荒くこぶしを握り締め、これまでのあんなに弱弱しかった調子とは打って変わった、駄々っ子ぶりを見せた。
結構大人っぽい娘だなと思っていたけれど、案外子供っぽいのかもしれない。口数が少なかったのも、辛辣な物言いだったのも、大人っぽく見られようという、彼女なりのアピールだったりしたのかな。
しかしまさか。
「……そこまで僕と一緒に居たいと思ってくれているとは」
嬉しいことを言ってくれる。
はっきり言ってくれなかっただけで、どうやらそれなりには愛されているらしい。
まあ一応なりとも親だしね。
離れ離れになってしまうのは僕も辛い。
せっかく出会えたばかりの妖精さんがいなくなってしまうというのは、僕としてもとても悲しいことだ。だから僕としては、彼女にエリアボスを任せるのには、微妙に心が反対に傾いている。
しかし彼女に勉強をさせるという意味では、ありがたい話だとも思っている。
むしろ親としては、子供を学ばせに行かせたほうが、今後の彼女のためにもいいはずなのだ。
だから、僕としては反対だけれど、親としては賛成だ。
危険な仕事は危険な仕事だけれど、こんな惨状にあってはもう、ククノチさんも全面的に協力せざるを得ない。安全とは言えないが、細心の注意は払ってくれるだろう。もし能力的に不安があるのであれば、山村の村長さんあたりに、僕から協力を仰いでもいい。あんまり仲がよろしくない彼女では、きっと言いづらいだろうし。
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