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見渡す限りの草原。
軽やかに吹くそよ風が心地いい。流れる雲に、照り付ける陽光。この晴れ渡る大空も相俟(あいま)って、まさに新世界へ降り立った僕らの門出を祝福せんが如くに、いい天気。
「ほんとに……見えてるみたいだな」
散点する岩、聳(そび)え立つ木々。そしてなにより、珍奇な角や牙をはやした猛獣たちが、至る所に闊歩している。
まさしくこれはファンタジーの世界。
その圧力が、迫力が、視界を通して脳に叩き付ける。
なんという立体感。
いやこれはもはや現実感と言っても過言ではない。
肌に感じる風や、太陽が肌を刺す暑さ。そのどれもがひどく現実的で、もし誰かに切り殺されでもしたら、本当に死んでしまうのではないかと憂慮する。
ここがゲームの中だとは思えない。
僕は降り立っていた。
そう、この、新作VRMMORPGの舞台に。
名を『グロウファンタジーオンライン』。
仮想現実(Virtual Reality)を追求した、最新のオンラインゲーム。
その世界の中に、僕はもう入ってしまっている。
周囲を見渡すと、僕と同様にサービス開始のタイミングを心待ちにしていたであろう面々が、続々とログインしていた。
ここは『はじまりの草原』。
新規プレイヤーたちが、最初にいきなり放り込まれるフィールドである。
今日はこのグフオの、サービス開始初日。
平日の夜だというのにこのログイン率の高さ。
見るだけで期待度が窺えるというものだ。
ちなみにグフオというのは僕が勝手に呼んでいる名前だ。
一般的な通称はグフオン。
ザクとは違うのだよザクとは。
他にもグロファンであったり、ロウファであったりと別の呼ばれ方も聞かれるが、僕は単純に字数が少なく若干言いやすいという理由で、『グフオ』と呼んでいる。人名みたいなところも間が抜けていて面白いしね。
当たり前だが、個々のアバターの上には名前が表示されている。
妙ちきりんなものから、好きなキャラクターの名前であったり、本名をもじったようなものや、まったく意味のない文字列や顔文字と多種多様である。
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