おはぎ友好作戦

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 NPCとの人脈を作って。  NPCとの交流を図って。  そうしてゲームを楽に生きようとしてきたわけだけれど。 「相当に特殊なやり方だったんだなこれ……」  まあきっと、プレイヤーの中には似たような遊び方をしている人も、いないわけではないのだろうが。普通は、普通にクエストをこなして、普通にモンスターを倒して、普通にプレイヤー間で売り買いするもの。仮にNPCとの友好関係を築こうとも、それはあくまでクエストを通しての交流であって、会話をし、交渉をし、さながら本当の現地民とするように、親密に話をすることなど、これまでのゲームでは考えられなかったことだ。 「そもそもNPCと交渉できるなんて話、俺も最近まで知らなかったしな」  悩ましげに、カスは言う。  実に纏う金色の鎧もいささかくすんで見える。  以前ともまた違う鎧を、こうも簡単に取り揃えられるカスでさえ知らなかった。なら、他のプレイヤーがそれに気付かない道理。  少し僕は、普通じゃないやり方をやっていたようだ。  とはいえ。 「プレイガイドにはそういうの書いてなかったわけ?」  僕はカスに尋ねる。  僕はあまり、公式の情報を読み込んでいないので、詳しいことはわからないけれど。ある程度ゲームのプロモーションをする上では、そういった情報がないと、お披露目にならないわけで。 「ねえな」  ないそうである。  公式には、最低限キャラクターを動かすためのガイドと、幾つかの世界設定。ちょっとした職業やアイテムの情報などこそあるものの、『何が出来るのか』については、明記されていなかった。むしろその部分を隠すことで、興味を引きたてているきらいすらあるのだと。  探せ。  これほど、そのまんまなキャッチコピーもない。  ヒントも何もなく、自分自身で探さなければ、何物も手に入らない世界。言い換えれば、それだけ困難は多いけれど、その分自ら手にした達成感は、普通にゲームをやっていて得られる比ではないということでもある。 「探せば探すほどに、見つければ見つけるほどに、何度もあの興奮が味わえるってんだぜ。これほど面白いもんはねえよ」  トカゲと出会った時もそうだったが。発見する喜びは、出会う喜びは、苦労を乗り越えているからこそ、ひとしおだ。しかもそれは広大。複雑にも雑多に、世界は未知で溢れかえっている。  その辺りに、惹きつけられる魅力があるのだろうな。
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