15356人が本棚に入れています
本棚に追加
NPCとの人脈を作って。
NPCとの交流を図って。
そうしてゲームを楽に生きようとしてきたわけだけれど。
「相当に特殊なやり方だったんだなこれ……」
まあきっと、プレイヤーの中には似たような遊び方をしている人も、いないわけではないのだろうが。普通は、普通にクエストをこなして、普通にモンスターを倒して、普通にプレイヤー間で売り買いするもの。仮にNPCとの友好関係を築こうとも、それはあくまでクエストを通しての交流であって、会話をし、交渉をし、さながら本当の現地民とするように、親密に話をすることなど、これまでのゲームでは考えられなかったことだ。
「そもそもNPCと交渉できるなんて話、俺も最近まで知らなかったしな」
悩ましげに、カスは言う。
実に纏う金色の鎧もいささかくすんで見える。
以前ともまた違う鎧を、こうも簡単に取り揃えられるカスでさえ知らなかった。なら、他のプレイヤーがそれに気付かない道理。
少し僕は、普通じゃないやり方をやっていたようだ。
とはいえ。
「プレイガイドにはそういうの書いてなかったわけ?」
僕はカスに尋ねる。
僕はあまり、公式の情報を読み込んでいないので、詳しいことはわからないけれど。ある程度ゲームのプロモーションをする上では、そういった情報がないと、お披露目にならないわけで。
「ねえな」
ないそうである。
公式には、最低限キャラクターを動かすためのガイドと、幾つかの世界設定。ちょっとした職業やアイテムの情報などこそあるものの、『何が出来るのか』については、明記されていなかった。むしろその部分を隠すことで、興味を引きたてているきらいすらあるのだと。
探せ。
これほど、そのまんまなキャッチコピーもない。
ヒントも何もなく、自分自身で探さなければ、何物も手に入らない世界。言い換えれば、それだけ困難は多いけれど、その分自ら手にした達成感は、普通にゲームをやっていて得られる比ではないということでもある。
「探せば探すほどに、見つければ見つけるほどに、何度もあの興奮が味わえるってんだぜ。これほど面白いもんはねえよ」
トカゲと出会った時もそうだったが。発見する喜びは、出会う喜びは、苦労を乗り越えているからこそ、ひとしおだ。しかもそれは広大。複雑にも雑多に、世界は未知で溢れかえっている。
その辺りに、惹きつけられる魅力があるのだろうな。
最初のコメントを投稿しよう!