15356人が本棚に入れています
本棚に追加
売り場としての名義はグラサンの店。一応僕が監督をしているとはいえ、そんなことお客からしたらどうだっていいことだ。宣伝の中身にも、わざわざ僕の名前を盛り込むことはしていない。そんなこと売り上げには関係なかったからである。
「じゃあ、一般のNPCが僕の名前を知らないのは当然じゃんね」
大姐が僕の名前を知っていたのは、彼女のほうから情報を集めてくれたからだし。執事さんも左に同じ。彼らのようなキャラが配置されているのは、宣伝が不得意なプレイヤーでも、正当に評価されるようにとの配慮かな。
「まあ……いいか!」
別にそこまで有名になりたいわけではない。
友好度とやらが十分に発動したところで、それを生かしたい目的もないし。今のところ商売は軌道に乗っている。効果的な宣伝ができる土台も作れたし、これ以上を望む必要はないのだ。
それに。
知名度が上がると、NPCを通して情報が漏洩する危険がある。
NPCに情報が拡散されると、彼らを通して、プレイヤーにまで名前が広まる。
以前、森ノ市で僕が僕自身の店で商売をした際、その実績が、炎の料理人なる頓痴気なプレイヤーにまで伝わった。そしてそこから一部、僕の名が不用意に広まってしまった。まあそれで助かった部分もないでもないが。マイナスの方が大きい……。
ゆえにこれ以上名前を売る必要はないだろう。
同じ轍を踏むのは、愚か者のすることだからね。
「……すみません」
どうも。
何度も同じ轍を踏む愚か者です。
で、でももう覚えたよ!
植物なら僕も鑑定ができる。
そのスキルは、ようやっと記憶に定着した。
だいぶ遅いけどね。
なのでせめて、楽しく農業をする時間だけは確保したい。
そのための隠遁生活だ。
「でもなあ、有名になったら新人農夫も増えるのかなあ」
静かな農業と。
新たな仲間達。
両天秤にかける。
「やっぱり……静かに暮らしたいな」
もう既に、変態という変態に目をつけられている。
これ以上の変態は御免被りたい。
そのためにも、静かな時間は大切だ。
だから、宣伝はこのままでいい。
商売の実績は、農村の面々とグラサンにすべてあげよう。
それがどう世情に反映されるかはわからないけれど、彼らも儲けられるし、僕にもそのお零れが入って来る。ならそれでいい。それぐらいのリターンがあれば、裏方仕事に徹するのもよいものだ。
最初のコメントを投稿しよう!