新たなエリアボス

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 この状況を救う手は限りなく少ない。  それはあるいは、ククノチさんが動けないようにという、誰それが描いた絵図が機能しているのか。まったく迷惑を被る僕らの身にもなってほしいところだ。まあ迷惑というか、元からこれが迎えるべき物語だったような気はする。  妖精さんが生まれ、エリアボスを倒し、その力を引き継ぐ。  ククノチさんと出会わずとも、遅からず妖精さんは生まれ、被害の大小こそあれ、結果として妖精さんは力を得ていたと思う。  世界が僕らを、導いている。  なんとも作為的な運命だ。  まあそれが、ゲームがゲーム足るところではあるが。  ありがたいことだが。  ありがた迷惑だ。  正直な気持ちを言えば、そんな力別に要らない。  可愛い上に強い、素晴らしき妖精さんが仲間になってくれた時点で、もう十分すぎるサポートをしてくれている。そこにさらに、エリアボスという役職は過分だ。今で十分事足りている。  しかもきっとその地位を得るためには、制約がある。 「ひとつ、聞いてもいいですか」  僕は問う。  それはおそらく、妖精さんからの、エリアボスという役職に対する印象を悪くすることにつながる話。しかし確認しておかなければならない大事なことだ。 「さっきククノチさんは、妖精さんに森の統治をしてほしいと言っていましたよね。ということは、統治と言うからには――――彼女は森に居続けなければいけないですよね?」  僕の問いに、ククノチさんは顔を上げる。  まっすぐに僕を、妖精さんを見る。 「その通りです」  肯定する。  それを聞いて妖精さんは、びくんと身体を震わせた。  ようやっと、事の重大さに気が付いたのだろう。  薄ぼんやりとしていた顔色から、血の気が失せより蒼白になる。 「期間がどれほどになるか、それはまだ不明です。ですが御礼はいつか必ず、身命を賭してお返しいたします」  そうしてククノチさんは僕らの目をじっと見つめ、乞い願った。  ククノチさんの意思を、熱意を受け、何と答えるのか。  さすがに重すぎる話ではあるが、しかし彼女にとって悪い話でもない。力の増強はありがたいことだし、拘束と言ってもそこまで長くはないはずだし。  すると妖精さんは、プルプルと身体を震わせたままで、小さな身体をより小さくまとめ、縮こまる。  と、くぐもった声。 「ふぇぇ……」 「……泣いちゃった!?」
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