epilogue

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ーー桜が咲いている。 「うー。こんなところ冬至に見つかったら怒られそう。」 携帯に残る大量の着信履歴を眺めつつ、憂鬱な気持ちを吐き出す。 書類片付けのなか、急にきたメールに風紀室を飛び出したのはいいものの、後のことを全く考えていなかった。 つい昨日会ったばかりなのに、彼に会えると。 そう思ったら止められなくて。 「普通に帰っても怒られそうだけどな。その着信量。」 「おわっ!?」 突如、首筋を撫でたするりとした感触に、その場で飛びはねる。 微妙に熱を持った首筋を手でおさえて犯人を振り返る。 「ちょっ。かい......、理巧。なにするの。」 「てめぇが、ぼーっとしてるのが悪い。」 「別にぼーっとなんてしてません。」 相変わらず、俺より少しだけ高い場所にある顔を睨みつける。 と、理巧はふーん。と一言。 そして、 「......もう。」 酷く楽しげに笑うのだ。 これでは怒るものも怒れない。これですべてを許してしまう俺は、甘いのかもしれないけれど。 「ちょっと寒いな。これ羽織れ。」 たいがい彼も、俺に甘い。 「かい、......理巧。」 強制された名前呼びも、まだ馴れない。ずっと会長と呼んでいたから、自然に名前が出てくるのはまだ難しくて。 だけど、 「錦すごい怒ってたよ。副会長なんて。」 変わらないことよりも、変わっていくことの方が断然多いから。 「あぁ、仕方ねぇだろ。愛が卒業してあいつも暇だろうし。菊地も、」 「うん。......副会長も変わったよね。」 変わる未来に、光を添えて。 「......そろそろ帰るか。」 「うん。」 小さく頷いて、黒い髪から覗く赤い耳に、思わず漏れるのは笑み。 こちらへゆっくりと差し出された手を、ぎゅっと握る。あたたかい。 酷く綺麗で、儚く強い未来はすぐそこにーーーー、 「ねぇ、理巧。」 「あ?」 「............一緒に謝ってくれない?」 「............あぁ。」 その前に、越えなければいけない壁があるのを忘れていた。 我らが大魔王は、どんな顔をして俺たちを迎え入れてくれるだろうか。
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