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しかし、幽霊の俺に出来る事など高が知れている。
一番良いのは風紀委員の体を借りての現行犯逮捕と制裁だが…
チラリと見たくもない光景を見て無理そうだと判断。駄目だ、絶対に間に合わない。
ならばやはり俺一人でやるしか無いのだろう。
仕方ない、状況が状況だ。俺の怨霊としての能力を最大限に使おう。迷っている暇はない。
『…すぅ…』
ずっと胸の奥底で蠢いていた感情を解き放った。
途端鳴り響く激しいラップ音。
「…!?な、なんだこの音は!!」
今更慌てふためいても、もう遅い。
辺りをキョロキョロと見回し始めた違反者達を睨み付ける。
「ひぃっ!!」
一瞬で顔が土気色になり、震えあがって走って逃げて行く違反者達。顔は覚えている。毎夜、毎夜自分で風紀に言いに行くまで呪ってやる。元生徒会長の記憶力を舐めるな。
と、今はそんな事より被害者のケアの方が先だ。
一応、彼の方に霊気がいかない様にはしていたが…
「……ひっく…うぅ…」
…泣いちゃった…。
とりあえず再び怨嗟の感情を押し込めてラップ音を消す。
「…………………止まった…?…うぅ、ぅ…」
…どうしよ…泣き止まない…
踞って泣いている彼にどうすればいいのか分からなくなる。
…えーい、このままじゃどうしようもない。実体化しよう。今日生徒会室に行くのは諦めるか。また明日にでも。
そういう意思を持って四肢に軽く力を入れると足先から触感が戻ってくる。
完全に実体化するとトンと靴が床に着いた。
その音で気が付いたのか、彼が顔をあげる。
俺はなるべく彼の不安を取り除ける様に優しく笑った。
「俺の声、聞こえてる?」
コクリと音も無く頷く彼に手を差し伸べた。俺の手を取る彼のその瞳に俺への恐怖は見られない。
……よかった…
「もう、大丈夫だから。…安心して?」
「……う、…うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
彼を立たせ、優しく頭を撫でながらそう言うと堰が切れたのか、大声で泣き出した。
「うん。怖かったね。もう大丈夫だよ」
背丈の余り変わらない慟哭する彼を優しく抱き締め、安心させる様に言葉を紡いだ。
……この恐怖は、俺が一番知っていると思うから…
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