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「………すみませんでした…。あの…ありがとう、ございました…」
「大丈夫だから、気にしないで」
泣いてすっきりしたのか謝って俺から離れた。腕の中から僅かに感じていた温かみが消えて少し寂しい。
「…本当に…ありがとうございました」
「…あぁ…いや、別に。当然の事をしたまでだから」
ニコッと笑って言った。この笑顔にはもうこれ以上のお礼はいらないよ、といった意味が混じっている。
彼もその意図に気付いた様で1度、ペコリと頭を下げて次の話題に移った。
「あの…貴方のお名前を聞いてもいいですか…?」
……………なまえ…。
そんなもの…もう誰も呼んでくれないし、自分で言う機会も無いし、何より、【―――】はとっくの昔に死んだから…。
「……俺は幽奇 霊-ユウキ レイ-。君は?」
【幽霊】もじって、完全な当て字だけど……意外といそうな気がする。
即興で考えた自分の名前に大変満足した。よし、次から名乗る機会があったらこの名前にしよう。……無いか…
「結城 令さん…ですか…。僕は宮野 秋夜-ミヤノ シュウヤ-です。結城さんはどうして此所に?」
あれ?なんか【ゆうき れい】の漢字が違った様な……まぁ、いいか。にしても、宮野 秋夜君…か。聞いた事ないし新入生か?
「いやいや、宮野君こそどうして此所に?この辺は人通りが少ないんだから危ないんだよ?」
諭す様に質問返しし、俺への質問を躱した。さっきの質問には答えにくいからな。
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