第三章

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「なぁ、しず。頼みがあるのだが」 義経は腕の中でまどろんでいる静御前に言う。 「義経様が頼み事なんて珍しい。何だか怖いですね」 「そうだな。しずには酷な願いかもしれん」 言い淀む義経の様子に、静御前の身体に力が入る。 「義経様は、私が不要になったのですか?」 震える声で静御前が言えば、義経は静のつむじに口付けを一つ落とす。 「しず、考え過ぎだ。 俺がしずを離す事は無いと前にも言ったであろう。 俺は、しずが居なければ死んだも同然なのだよ」 「それは、私も同じです」 義経は静御前の柔らかな身体を、きつく抱きなおすと思い切ったように話す。 「今度正五位下の位を頂戴した祝いをする事になった。 そこで、しずには祝いの舞を舞って欲しい」 「そんな容易い事の何が酷なのです? 私は義経様の為なら、いくらでも舞ます」 「ああ、だが場所は、俺の館なのだ」   俄かに静御前の顔が強ばる。 義経はそれを予期していたかのように続けた。
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