16人が本棚に入れています
本棚に追加
/256ページ
「なぁ、しず。頼みがあるのだが」
義経は腕の中でまどろんでいる静御前に言う。
「義経様が頼み事なんて珍しい。何だか怖いですね」
「そうだな。しずには酷な願いかもしれん」
言い淀む義経の様子に、静御前の身体に力が入る。
「義経様は、私が不要になったのですか?」
震える声で静御前が言えば、義経は静のつむじに口付けを一つ落とす。
「しず、考え過ぎだ。
俺がしずを離す事は無いと前にも言ったであろう。
俺は、しずが居なければ死んだも同然なのだよ」
「それは、私も同じです」
義経は静御前の柔らかな身体を、きつく抱きなおすと思い切ったように話す。
「今度正五位下の位を頂戴した祝いをする事になった。
そこで、しずには祝いの舞を舞って欲しい」
「そんな容易い事の何が酷なのです?
私は義経様の為なら、いくらでも舞ます」
「ああ、だが場所は、俺の館なのだ」
俄かに静御前の顔が強ばる。
義経はそれを予期していたかのように続けた。
最初のコメントを投稿しよう!