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  医大卒業を無事に終えてから、数日後。ある噂が、広まり始める。 『渋滞中、渋滞時に現れる医者が凄いんだって。』『人間だけでなく、動物も治すらしいよ。』『何処からともなく現れて、治療したら、いなくなる。』『いつも、白い狐の仮面をつけている。』『大きい救急箱持って現れるらしい。』『一目見て、病気を言い当てて、治療も手早く素早くやるらしい。』『料金は、取らないって。』『魔法使いみたいな、医者。』 巷で流れる、噂。他の病院の医師の間でも、囁かれる。でも、事実なら違法になる。 医師は、人間なら人間だけを治療する。獣医なら動物だけを治療する。両方を治療してはならない、畑を違ってはならない。 その医師は、所在がバレたら医師免許は剥奪される恐れがある。 人間も動物に入るが、それは屁理屈でしかない。それを判っているのか、誰も名乗り出ない。 出る杭は、打たれる。何処の社会も、それは同じ。医師もまた、出る杭は打たれてしまうもの。患者の中には、動物と一緒扱いを嫌う者もいる。それ程に、畑の間にある壁は分厚く、溝は奥深く、根強い。その畑の間は、乗り越えてはならない。 それでも、噂は絶える事もなく流れている。特に救急車にとっては、『白い狐の仮面』をつけた医師は救世主。渋滞中、渋滞時、患者を考えると病院に届けたい。当番病院に電話を掛けても、盥(たらい)回しにされる場合もある。居留守を使われる場合もあれば、重病でもない者によりタクシー代わりにされる場合もあるから。見た目では、重病人か判らない場合もある。痛みを我慢する人もいるのだから。
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