第1話「テルスター家と暗殺者」

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「……」 「それから『鍬を握る時は右手と左手の間を拳一つ分空ける。これは剣を握るのと一緒で腕が鍛えられる』、これは何千回も聞いた」 「……」 「そして、『鍬は力を抜いて鍬の重さに任せて振り下ろす。これにより力を抜く感覚が養われる』。これは……、父さんの手料理を食べた回数よりも多いかな」 「……親に育ててもらって何だその言いぐさは!」  息子の口答えに堪えきれなかったのか、ダイアンは顔を赤くして耳がつんざくほどの金切り声をあげた。 「父さんの手料理を食べた回数よりも多いだと!? じゃあお前は父さんが作った料理を覚えているのか!?」 「オムレツと目玉焼きと卵かけごはんだろ? なんでいっつも卵料理ばっかなのさ!」 「サラダが抜けてるじゃないか! 野菜サラダ!!」 「あれは料理って言えるの!? ただ野菜をちぎってドレッシングをかけただけじゃないか!」 「むしろ卵かけごはんの方が料理って言えんだろ!」 「じゃあオムレツと目玉焼きと野菜サラダだね、父さんが今まで作った料理は!」 「何だと!? この親不孝者!」 「父さんの分からず屋!」 「二人とも!」  マナトとダイアンの会話に二人のものとは別の声が入る。声の主に目をやると、そこには満面の笑みを浮かべたリモの姿があった。  しかし、表情こそ穏やかであるものの何やら並々ならぬ雰囲気を漂わせていた。まるで菩薩の顔をした鬼神のようである。そんな少女の姿を見てマナトとダイアン、大の男二人は恐怖を感じずにはいられなかった。 「早く仕事はじめないと今日のお昼ご飯、二人の分抜きにするから」 「「……はい」」  リモの言葉に従いマナトとダイアンは畑仕事を始めた。 昼、畑仕事を終えなんとか昼食にありつけた三人は山の中にある泉へと向かった。この泉こそが山に住んでいるテルスター家の水源でありここから水を汲んで洗濯や料理といった生活用水に使われている。 「マナト、お前が今『水汲みなんて剣術に関係ない』などと思っているんだったら、今すぐその考えを改めるべきだな」 「……」  ダイアンの言葉に対しマナトは返事することなく黙っていた。もし口答えしようものなら父と口論になり、その時は間違いなくリモから夕飯を抜きにされるからである。 「まず水を汲んだバケツを左右一つずつ持ち両腕を伸ばす。これにより肩がより強固になる」 「……」  マナトは黙ってダイアンの言うと
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