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うかがわせた。
「……」
「……」
「……」
マナトは、頭部のバケツをおそるおそる外す。そこには怒りと殺意を込めて星を睨み付けるダイアンの顔があった。
「……父さん、大丈夫?」
「……親に向かって水をぶちまけるのは剣術の修行か?」
「あ、いや……。ていうか、バケツかぶったままここまで来たの? すごいね……」
「……」
しばらくしてダイアンは満面の笑みを浮かべた。だが表情こそ笑顔だが彼から感じる殺気は収まらず、むしろ倍増したような気がした。
「そりゃお前よりも長く剣術をやっているからなぁ、ハハハハハ」
「ハハハ、ハハ……」
ダイアンにつられて笑うマナト。だがその笑みは恐怖でぎこちなさが漂っていた。星の傍らにいたリモもぎこちなく笑う。
「そしてこれが……」
ダイアンは両手に持っていたバケツを地面に落とした。足場の悪い地面に落ちた衝撃でバケツの中に入っていた水が勢いよくこぼれる。そしてバケツを持っていた手で握り拳を作った。父の手を見てマナトは、もはや自分が無事で済まないことを悟った。
「長年修行してきた成果だあああああっ!!!!」
「ぎゃあああああっっっ!!!!」
マナトの脳天に、ダイアンの怒りの一撃が振り下ろされた。
「……ちゃん、……にいちゃん」
「ん、んん……」
「お兄ちゃん起きて! お父さんが大変なのっ!!」
「ん? ああ……」
妹の声で意識を取り戻すマナト。どうやらダイアンの一撃で意識を失いいつの間にかベッドに運ばれていたみたいだ。そういえば父に殴られてからそれ以降の記憶が全くない。
そして、意識を取り戻してくれたリモは文字通り血相を変えていた。普段は物静かな妹がこんなにも取り乱しているということはただ事ではない。十四年間妹を見てきたマナトに狂いはなかった。
「父さんがどうしたって……?」
「いいから早くきてっ!!」
「あ? ああ……」
先程まで気絶していた兄のことなど気にも留めず、リモはマナトの手を力いっぱい引いて父のもとへと走った。
テルスター家の庭には三つの顔がある。
まず一つ目は、マナトとダイアンが剣術の鍛錬に使う修行の顔。次に二つ目は、洗濯物を干したり巻を割ったりなどに使う生活の顔。そして三つ目は、ダイアン・テルスターの首を狙って挑戦者が彼に戦いを挑む決闘の顔である。
その昔ダイアンは武者修行で世界を回っており、全国各地で猛者
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