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腹部を切り裂かれた痛みを堪えながら受け身を取るが構え直した時には包帯男はダイアンの目と鼻の先にいた。
包帯男はダイアンの前で爪を縦横無尽に振り回す。対するダイアンは斧を右手で持ち、塞ぐのが精いっぱいだった。左手は包帯男に引き裂かれた腹部を抑えているが動くたびに指と指の間から血がこぼれていた。次第に動きが鈍くなり包帯男はダイアンに足払いを放った。
「あっ……!?」
視界から包帯男の姿が消え青空が目に入ってきた。ダイアンは、傷をかばうあまり防御をおろそかにしていた自分の未熟さを恥じた。青空を背景に飛び掛かってきた包帯男が再び現れる。包帯男は右手の五指を揃え抜き手を放つ体制に入った。マナトとリモ、二人の子どもが父の死を覚悟した。だが当の本人は死など覚悟していなかった。ダイアンは、包帯男の右わき腹に目がけて斧の柄をぶつけた。
「……っ!?」
空中で突如強い衝撃が加わり包帯男が地面に落ちる。包帯男が倒れている間ダイアンは立ち上がり、腹部を切り裂いた張本人の首筋に斧の刃をあてた。包帯を通じて刃の冷たさを感じた瞬間、包帯男は自らの敗北を悟った。
「殺されたくなかったらさっさと失せろ。こちとら子ども達の前で殺しをしたくねぇんだ」
「……フン」
包帯男は斧をのけ立ち上がり包帯についた土埃を払ったあとダイアンを睨むように見つめた。
「……これで勝ったと思うなよ? どのみちお前は死ぬんだからな」
そう言って包帯男はテルスター家を後にした。包帯男の姿が、見る見る小さくなっていき、遂には見えなくなってしまった。
「……ふん、『どのみちお前は死ぬ』だぁ? 負け惜しみもいいところだ、……っ!?」
突如ダイアンの視界がグニャリとゆがんだ。空が、木々が、地面が、まるで絵具のように見ているものすべてが混ざって見えた。
「父さん大丈夫!?」
「お父さん……! お父さん!!」
ダイアンは声が聞こえてきた方向に目をやった。周りがゆがんで見えるため誰が誰だか分からなかったが近づいてきたのがマナトとリモであることを理解するのにそう時間はかからなかった。
「……マナト……、リモ……」
ダイアンは二人の子どもの名前を呼んでぐったりと意識を失った。
「お父さん!? お父さんっ!!」
「リモ! 今すぐ山を下りてマザー・イレルダに診てもらおう!!」
「う、うん……。けどその前にお父
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