第1話「テルスター家と暗殺者」

9/18
前へ
/18ページ
次へ
が消えた。  教会に着いた途端ダイアンはすぐさま医務室にあるベッドに乗せられた。そして、教会の主であるマザー・イレルダがダイアンの上半身の衣服を取り、傷の様子を見る。 「……ダイアンはなんで怪我をしたのか説明して頂戴、マナト」 「はい、父さんに決闘を挑んできた男の一撃を喰らって……」 「……」  マナトの説明を聞いてイレルダは深い溜息を吐いた。何せダイアンが教会にやってくる要件といえば決闘で戦って傷を負った時ばかり。この前は武闘家と闘って負傷しその前は十人の盗賊と闘って全身打撲、更にその前は猛獣使いが連れてきた動物にかまれて感染症でしばらく入院。そして今度は……。 「……今度は誰と闘ったのです?」 「えっと……、全身を包帯で覆った男です」 「武器は?」 「爪です」 「爪?」 「はい。手の部分だけ露出していて、父さんはそいつに腹部を爪で引っかかれたのです」 「……傷を負ったのは腹部だけかしら」 「はい」 「妙ね」 「えっ?」  イレルダの言葉にマナトは一瞬動揺した。それはそばで話を聞いていたリモとリエルも一緒だった。 「妙、というのはどういうことでしょうか?」 「貴方の言うとおり傷は腹部だけ、しかも血は大量に出ていますが傷口は浅い。しかし……」  そこでイレルダは言葉を止めチラリとダイアンの顔に視線を移した。 「その割には全身から汗を吹きだし高熱を出している。リエル、ダイアンの血液を採取して頂戴」 「はい、マザー」  リエルは医務室の机の引き出しから注射を取り出し、注射針をダイアンの腕に刺した。突然の痛みにダイアンの身体がのけぞる。 「シスター! 注射を刺す時は一声かけてから刺しなさい」 「は、はい! すみませんマザー……」 「……」 「……」  ただでさえ父の容体はよくないのに果たしてこのシスターに任せて大丈夫なのだろうか? マナトとリモの胸にさらなる不安が募る。 「マザー、採血完了しました」 「次はその血液を顕微鏡の上に置いて」 「はい」  リエルはダイアンの血液をスライドガラスの上にのせステージとレンズの間に差し込んだ。作業が完了したことを見計らうと、イレルダは顕微鏡の置かれた机の前の椅子に座りこみ、顕微鏡の中を覗き込む。 「……」 「……どうですか?」  長引く沈黙にマナトが口を開く。しかしそれでもイレルダは黙ったままだった。 「……これは……」 「どうした
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加