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冬も本番がぐんと迫ってきた頃、由紀が風邪で会社を休んだ。 一緒に居られないので、仕方なく仕事に打ち込むことにした。 頑張って、クリスマスには由紀の欲しいものを何でも買ってあげようと思った。 しばらくして出社した由紀は、浮かない表情をしていた。まだ気分が優れないのかもしれない。 僕は心配になり、定時で帰るように言った。しかし、彼女は青ざめた顔で首を横に振り、 「今日中に、終わらせなきゃいけない仕事があるんです」 とだけ言う。目には、なぜだかうっすらと涙が浮かんでいる。 「由紀……?」 僕は数日前とはまるで違う彼女の様子に困惑しながら、ちらちらとその横顔を見ていた。 なにか、悪い予感がした。 なぜだ。なぜ彼女は泣いているんだ。 あいつに、何かされたんだろうか……。 仕事を片づけると、パソコンの電源を落として、部屋の電気を消す。廊下の蛍光灯だけがチカチカと弱い光を放っている。 僕はまた、不安に襲われる。下降してゆくエレベーターの中で、薄暗のロビーで、不気味なほどしんと冷たい空間の中で、僕の心音は波うつように激しくなってゆく。 入口を出たところでやっと、由紀は口を開いた。 「子どもができたの」 そう言って彼女は、冷えて赤くなった両手で顔を覆いながら、とめどなく涙を流し続けた。 僕にはもう、きれいだ、なんて思う余裕は、なかった。
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