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ーー子どもができたの。
由紀は、確かにそう言った。
子どもが出来たのは喜ばしいことだ。
お祝いをしないと。
なのになぜ、彼女は、泣きじゃくっているんだ?
どうしてーー。
街のあちこちにイルミネーションやツリーが光り、どこからともなく気の早いクリスマスソングが聞こえてくる。
通りかかる人が変なものを見るように僕らを見ている。きっと、この街の幸せな雰囲気に、この光景はふさわしくないのだろう。
週末の夜は明るい。
僕らの横をゆきかう人々は、サラリーマンもOLも恋人たちも、みな妙にうきうきして光って見える。さむいさむいと言いながら、あたたかい場所を目指して歩いてゆく。
僕ら二人だけが、どこにも行けない人形のように、ただ呆然と真っ暗闇の中に立ちつくしている。
本当はーーはじめから何もかも、わかっていたんだ。
いつまでも続く関係なんかじゃないってことを。
だけど知らないふりをした。
彼女の弱さにつけ込んだ。
僕は本当は、彼女が泣く理由を知っている。
だから今は、優しい言葉なんてかけてあげないんだ。
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