5.

2/3
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ
ーー子どもができたの。 由紀は、確かにそう言った。 子どもが出来たのは喜ばしいことだ。 お祝いをしないと。 なのになぜ、彼女は、泣きじゃくっているんだ? どうしてーー。 街のあちこちにイルミネーションやツリーが光り、どこからともなく気の早いクリスマスソングが聞こえてくる。 通りかかる人が変なものを見るように僕らを見ている。きっと、この街の幸せな雰囲気に、この光景はふさわしくないのだろう。 週末の夜は明るい。 僕らの横をゆきかう人々は、サラリーマンもOLも恋人たちも、みな妙にうきうきして光って見える。さむいさむいと言いながら、あたたかい場所を目指して歩いてゆく。 僕ら二人だけが、どこにも行けない人形のように、ただ呆然と真っ暗闇の中に立ちつくしている。 本当はーーはじめから何もかも、わかっていたんだ。 いつまでも続く関係なんかじゃないってことを。 だけど知らないふりをした。 彼女の弱さにつけ込んだ。 僕は本当は、彼女が泣く理由を知っている。 だから今は、優しい言葉なんてかけてあげないんだ。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!