第1章

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明日なんて来なくていい! 2月14日、私は好きな人に振られた時にそう思ってしまった。 校門の前で作ってきたチョコを渡そうとしたら拒まれて癇癪を起こして走った。 明日なんて来なくていい。 心の中で叫んだ私は、そのまま車にひかれた。 簡素な携帯のアラームで私は目を覚ます。自分の部屋だ。 体に痛みはない、運よく大事に至らなかったらしい。 どうせならゆっくりしようと私は布団をかぶり直して目をつぶった。 意識がまどろみ沈んでいく。 声が響いた。 「佳奈ー起きなさい!」 ドアを開け放たれてとんできた声に私の意識は一瞬で覚醒した。 「ほら、遅刻するわよ!」 「え?」 まるで私に今日登校させる様な物言いに、つい間抜けな声が出る。 母はそんな私を見て訝しげな顔をした。 「ほーら、さっさと用意しなさい!!」 「え、いや、ちょっと待って!え、何で、精密検査は?」 「精密検査?何寝ぼけてるのか知らないけど早く起きなさい。母さんが湯煎まではしてあげたから、さっさと仕上げなさいよ、今日彼に渡すんでしょ?バレンタインのチョコレート」 何を言っているのかわからなかった。 それではまるで今日が2月14日みたいじゃない。 私は確かに昨日チョコレートを持っていき、彼に拒まれ、そして車にひかれたはずなのだ。 茫然自失。 しかし、それすら念の為にと仕込んだ携帯のアラームによって現実に引き戻される。 画面をのぞいて見れば、そこには信じられない表記があった。 2月14日。 以来私は明日を迎えられなくなった。 今日は昨日と同じだった。 朝起きて見たニュース、受けた授業、友達と話した内容までもすべてが同じ。 違いは私が彼にチョコレートを渡さなかったことぐらいだ。 あんなリアルな夢を見て渡す気になる程、私は図太くない。 多少の後悔はあったけれど、これで日常に戻れると言う安心もあったのは事実だ。 だけど次の日の朝、携帯の画面をのぞいた時に私の甘い考えは打ち消された。 2月14日。 馬鹿な。 携帯の故障かと思えば昨日と同じ母の声と、なぞるかの様な1日。 最初の2月14日から、どれほど経ったのかはわからない。 私は同じ2月14日を繰り返し続けている。 何となくわかってきた。 いや本当はわかっていた。 多分、私は彼にチョコレートを渡さなくては明日を迎えられない。
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