第1章

2/10
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
8月3日午後3時00分 僕こと篠崎シンは憂鬱な気持ちで高速を走る車の助手席に乗っていた。 「今日から日本食はほとんど食べられないわね。あなた一ヶ月も和食抜きで耐えられる?」 そう聞いてきたのは今現在僕の横で車を運転している僕の母親だ。 「別に大丈夫なんじゃない?元からそこまで食べ物にこだわりないし…」 それ以上にこれからの人間関係のほうが問題だ。 今この車は空港へと向かっている。 明日から一ヶ月間、僕はアメリカに留学するのだ。 大学1年生の後期に、母親が就活の時の話題に使えるからと半ば強制的に申し込んだのである。 留学の時期は2年次の夏休み。まだ先のことだからまあいいかとたかをくくっていた結果がこれである。 夏休みに入る前、4月から7月の間に留学メンバーの親睦を深めつつ英語への理解も深める授業が週1であったが、めんどくさかったので2回くらいしか出席していない。 よって知り合いは全然いない。 一人、知り合いで唯一連絡先を互いに知っている子がいるにはいるが、中学生の時の元カノで実に4年ぶりの再会である。気まずいことこの上ない。 そしてなにより僕は国数理社英の主教科の中でダントツで英語が苦手だ。 本当になんで留学なんかしてしまったんだろう。英語できないやつがホームステイなんてしてまともに生活できるのだろうか。 そんな不安をよそに車は空港に到着した。18時発の便なのに集合は2時間前。絶対に時間を持て余すだろうから遅刻しようといったら母親に罵倒され、結局着いたのは集合時間の20分前である。 空港の入り口で母親と別れ、一人でキャリーバッグを引き集合場所へと向かう。 集合場所に来ると僕以外の留学メンバーはみんな集まっていた。居心地が悪いことこの上ない。 今回僕が在籍している大学の留学メンバーは僕を含め男が5人、女が15人の計20人である。 とりあえず向こうに行ってからの保険のために3人の男の連絡先を聞いておいた。男のうち2人が同い年の2年生、1人が1歳上の3年生、あと一人が留年した2つ上の3年生となっている。 唯一連絡先を聞かなかったのは1つうえの3年生。なんか生理的に受け付けないタイプだった。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!