プロローグ

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 あたりを隙間無く埋めるのは膨大なる質量の闇。  その中を狐火を思わせるランプの灯りが揺れながら泳いでいる。  ランプの青白い光は周囲を取り囲むブロックに当たっては滑り落ちる。  この艶のあるブロックは平面に立体に、あるいはねじりを加えて積まれていて、高いアーチ状の天井を作り、横壁に形容しがたい人知を超越した意匠を与えていた。   そして今、ランプと共に進む彼の息づかいと衣擦れの音が、あたりに積もり重なった静寂をやすりがける。  ハヤミ・アユムはもう一度ランプを高く掲げた。  壁と、人の背丈の三倍ほど高い天井まで青白い光を受けて輪郭がはっきりとわかる。また奇妙なことに自ら鱗粉のように淡く発光している様にも思えた。  これが通常より遠くを照らす『マナランプ』の力だ。  古びた鉄の瓶に囚われてはいても『マナ』のみいつは力をふるい、あたりを力強く照らすのだ。  アユムは異常がないことを確認すると、手にした『オリ』のタグを壁に手槌をもって打ち込んだ。  繊細な音を立ててタグはその身を壁にめり込ませると、ランプの光をはずしても自らに光を留めていた。  アユムは左手の時計をみた。  このダンジョン用の時計はスイッチをさわるとマナの濃度を教えてくれる特別製だ。  アユムの目の前でデジタルの液晶は四十という数字だけを浮かべて消えた。  アユムはマスクを外すと、のどを絞り、すこし先を行くコージに声をなげた。 「濃度四十パーセントです、コージさん、このへんで一服しましょうか!」 アユムの声があたりに反響する。 少し先をいくコージの灯りがゆれた。 了解の合図だ。
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