泡。

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 今日、四月十日は高校の入学式。 黒い字で『2×××年度 入学式』とだけ書かれた白い看板を無視して校門を突っ切った。 その先にある、地獄という文字しか目に映らない百段近くある階段は、この学校の名物である。そんな頑丈なコンクリート階段を一段飛ばしで登っていく。  登り切った時には、綺麗な街が見えるわけでもなく、高い山が見えるわけでもなく、ただ透き通った海が広がっているだけだった。そこに息切れが追加される。 学校のドアは、体が不自由な人のためにもということで自動ドアになっていて、ドアを開ける手間がなくなって良い。 廊下を少し進むと、すぐに階段がある。が、今は多分関係のないことなんだろう。  他の校舎を見に行くと、どうも少し場違いな場所だったようで、僕は元の校舎へ走った。俺には時間がないのだ。 やっと学校の地図を見つけ、中央庭を探す。中央という名前だから学校内の真ん中にあるわけでもない。ただ、生徒たちが安らぐ。そんな場所だ。 中央庭につくと大きい掲示板が、でんと立てられていて、クラス表が貼られていた。  自分のクラスを確認すると、地図を片手に教室へと急ぐ。一年校舎に入ると、階段を一段飛ばしで登り、廊下を足音立てずに小走りする。 各クラスからは、少しザワザワした空気が漂ってくる。そして突き当りを右に曲がって立ち止まる。 第一声は、顔は、見る場所は、どうしたら良いだろう。きっと誰もが自分の方を向いてくる。けど、気にするものか...! 「お、おはようございますっ...。」  裏返った声とともに、全員が俺の方を向く。その場が一気に静まり返って、俺はこの場から去りたくなった。 「入学式から声が裏返るほどテンションが高いのかー。席に座れー。遅刻だぞー。」 その担任の一声で、静まり返っていた教室がにぎやかになった。 「おまえ、面白いな!」 「ふふふっ。」 女子も男子も、俺を見ながら笑っている。ここは自分も笑うところなのだろうか。 いや、それではただのお調子者キャラだ。キャラは第一印象が大事だ。 とか言いながら俺は、顔を赤面させて空いている一番前の席に座った。 隣の席の女子は、俺を見てクスリと笑った。そして隣の列の、後ろの席にいる双子の兄が俺を指さして大いに笑っている。 正直、あっちのほうが恥さらしな気がする。 「おーい、うしろー。うるさいぞー。」 担任が兄を注意すると、教室までもが静かになった。
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