序章

6/7
123人が本棚に入れています
本棚に追加
/131ページ
 会計を済ませた2人が店の外に出ると、シンシンと雪が舞っていた。今年、最期の雪なのだろう。暦の上では、もうすぐ季節は春へと変わる。ジョナは寒さに少し身震いしながら、トミーを支えてタクシー乗り場へと急いだ。  上手い具合に、タクシーを拾う事に成功したジョナはトミーを奥の座席に押し込み、運転手に彼の自宅の前まで行くように指示を出す。  そのやり取りをしている僅かな間に、トミーは気持ち良さそうな寝息をたて始め、ジョナは肩を竦めながら苦笑する。  窓の外は、ネオンの光が夜の闇を眩く照らしている。風に煽られ舞い踊る雪がその光を反射させてキラキラと輝いては消えて行く。  ジョナの住む街は、眠る事を忘れてしまった大きな都市だ。夜通し街の何処かで事件が発生し、パトカーが右往左往しながらその対応に追われている。  ジョナはトミーの寝顔を見ながら、つと呟いた。その言葉を彼が聞いているかどうかは問題ではなかった。ただ、ジョナは彼に言いたかっただけだった。
/131ページ

最初のコメントを投稿しよう!