序章

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「人を殺す事に慣れ過ぎてもダメ。人を殺す事に躊躇し過ぎててもダメ―――バランスが難しいわよね。  きっと、彼らの人生を考えちゃいけないのよ。彼らの理由を知ったら、もう引き金を引くことが出来なくなる。  だから、[罪]を憎んで[人]を憎まずと言うんだわ。詭弁だとしても、そう思えたら、きっと貴方の苦しみは軽くなる……難しいケドね」  ジョナの目には、かつての自分がトミーに重なって見えていた。ジョナの紡いだ言葉は、初めて銃を人に向けて発砲した時の自分自身が言って欲しかった言葉だった。  しかし、その言葉でトミーの心は救えないとジョナは知っていた。何故なら、他人から与えられた答えは、彼の求める答えではないからだ。  だからジョナはトミーの意識が無い事を確認してから言葉を投げ掛けたのだ。ただ自分の気持ちを満足させるためだけに。  そして、ジョナは言葉を言い終えると、何事もなかったかのように視線を窓の外に戻し、タクシーが彼の家に着くのを待った。  次の勤務の時に、彼の出す答えが彼の人生を大きく左右する。その決断に、ジョナは口出すべきではない。だから、ただ聞くだけにとどめ、彼自身の判断に任せようと考えたのだ。  それが、彼に出来る先輩としての最後の指導になったとしても………。
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