〈1〉ミステリー研究会、存続の危機

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カイの友好的な微笑が一瞬、「取引を持ちかける悪魔の笑み」に見えたのはあたしだけだろうか? 「数学研究会」の他のメンツは、世俗的な欲に瞳をギラギラ光らせていた。気のせいか顔の表面からも十代らしからぬ嫌な脂が滲み出ているような気がする。 …あまりにスケールもレベルも違う話過ぎて、ツッコミどころすらわからない。凡人集団「ミステリー研究会」の方はただただポカンと黙っているしかなかった。…でも。 「黒夜叉君。何というか……それは、フェアじゃない、と思う」 かろうじて理性の残っていた「数学オリンピック」部長が額の汗を折り目の揃ったハンカチで拭いながら、シンプルに正論を告げた。 「フェアじゃない、だって? なら、夏休みに終わるはずだった特進クラス棟の改築工事が長引いてるからって、生徒会を抱き込んで普通クラスの弱小部の部室を乗っ取りに来ておきながら、何を今さら」 「……」 「いいから持って行け。二度と邪魔すんな!ホラ!」 何と、カイはロングシュートを狙うストライカーのような見事なフォームでホワイトボードを教室の外に蹴り出した。 車輪のついたホワイトボードは信じられない速度で廊下に飛び出し窓ガラスを割った。他の部の部員達の悲鳴が聞こえた。
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