第一章

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平安京の五条大路を通り、鴨川を渡ってそのまま真っ直ぐ東へ進むと、鬼道丸たちの住処である清水坂に突き当たる。 坂の南側一体は鳥辺野(とりべの)と呼ばれ、古くから葬送の地として知られていた。 平安京の中に墓を立てることは許されていない。  誰かが死ぬと、人々は遺体を郊外の鳥辺野まで運んできて、ここで荼毘(だび)にふしたり埋葬したりした。貧しい庶民なら、そのまま打ち捨てて野ざらしにしてしまうこともある。  腐臭漂う死体だらけのこの地は、まるで黄泉(よみ)の国そのもののように恐れられていた。 そのせいか、現世の五条通との境をなす辺りは、いつしかこう呼ばれるようになったのである。  六道の辻……つまり、地獄の入口と。 親方が言うには、月明かりもない真っ暗闇の真夜中、しかもその六道の辻のど真ん中に、鬼道丸はただ一人捨てられていたのだそうだ。  産着すら身に着けない素っ裸で、夜の闇を怖れて泣くこともなく、むしろ暗い夜空を見上げてきゃっきゃと笑っていたのだとか。 そんな忌まわしい拾われ方と例の不思議な力のせいで、鬼道丸は群れの仲間たちから浮いた存在だった。  恐れられているせいでいじめられることはなかったが、仲良くしてくれる者もいない。皆、遠くで鬼道丸の様子を窺い、片目で怖々見守っている、そんな感じだった。 だが、親方は別だ。  一応坊主なので頭を丸めてはいるものの、親方は仏など小指の先ほども信じてはいない。神仏すら恐れない罰当たりだから、鬼道丸のちっぽけな力なんて屁とも思わない。  だから、親方だけは容赦なく鬼道丸をどやしつけ、必要があってもなくても、頻繁に殴ったり蹴ったりするのだ。 昨日も、鬼道丸は稼ぎが少ないと、親方から半殺しの目に合わされたばかりだった。今も、鬼道丸の身体のあちこちには青黒く腫れ上がった痕がある。 今日もこんなはした金を持ち帰ったら、今度はどんな目に合わされることか。  鬼道丸は身を縮めて、膝にさらに深く顔を埋めた。
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