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雅臣の胸から顔を離しそっと妹の方を伺うと、ばっちり目が合ってしまいニコリと花が綻ぶような笑顔を向けられた。
魅力的な体は、白のブラウスと紺色のスカートで包まれ、何も身に付けていなくても漂っていた気品溢れるお嬢様度がアップしている。
さっき石のように固まり見つめ合っていた時は嫉妬のフィルターが掛かっていてはっきり見えていなかったのか、ちゃんと見ると雅臣に顔立ちがよく似ている。
すうっと通った鼻と程よい厚みのある唇の形は瓜二つだ。
兄妹の共通点を探すように妹を凝視してしまっていたのか、妹は恥ずかしそうに目を伏せ、雅臣は自分以外を見るなとでも言わんばかりに俺の顔を胸に抱いた。
怒っているのかトクトクと少し早めに打つ鼓動を感じながら、俺の視線を独占したがる雅臣に喜びを覚えていた。
「拓也さん、愚兄がお世話になっています。本当は大空で飛び回りたいのに頑なに籠から出ようとしなかった兄に、飛び立つ勇気を与えてくださってありがとうございます。それから、兄を人間らしくしてくださったのも、本当に嬉しくて喜んでいるの」
「拓也に会うまで僕は人間ではなかったと言うんですか?」
「えぇ。独占欲も執着心もなかったじゃないの。人生を達観した振りをした操り人形だったわ。そんな兄様が恋をしたらこんな可愛くなっちゃうんだもの、私可笑しくて……」
クスクスと鈴の音のような笑い声を立てる妹。
雅臣が変わったことを本当に喜んでいるんだと分かる。
それと同時に、俺が雅臣の初めての感情を引き出し、それを独占しているんだと改めて分かった。
雅臣本人から何度も告げられていたが、第三者の、それも雅臣の最も近くにいた人物からそれを知らされると、本当のことなんだと実感が沸く。
「今、雅臣が自由に羽ばたいているのは本人の努力の結果だ。それに君が、千鶴さんが一条の人達を説得してくれたことが大きな手助けになった。礼を言うのは俺の方だ。雅臣の鎖を解いてくれて、俺の隣に戻って来られるようにしてくれてありがとう」
雅臣の腕を解き顔を上げ、千鶴さんの黒褐色の瞳を見つめ真摯に告げる。
クスリと微笑む全てを優しく包み込む顔は誰かに似ている。
あぁ、聖母マリアだ。
小学五年の時に引っ越した九州の街にあった古い教会の、ステンドグラスに描かれていた赤ん坊のキリストを見つめている表情にそっくりな千鶴さんに、感謝の祈りを捧げたくなる。
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