691人が本棚に入れています
本棚に追加
/285ページ
手に持ったバトンが汗で湿ってきた。
今が夕暮れ時で良かった。世界が赤くて良かった。
「……ありがとうございます」
そう言い終える前に、彼はもう仲間たちの作る輪の中に戻って行ってしまった。
風に揺さぶられる柔らかそうな髪を視線で追いかけながら、胸を押さえた。
もっと話がしたい。
もっと見ていたい。
もっと近づきたい。
触れてみたい。
その思いがなんなのか、十四の俺には分からなかった。
それが「恋」なのだと自覚をしたのは、東塚菜緒樹(とうづか なおき)が卒業をしてからだ。
最初のコメントを投稿しよう!