プロローグ

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手に持ったバトンが汗で湿ってきた。 今が夕暮れ時で良かった。世界が赤くて良かった。 「……ありがとうございます」 そう言い終える前に、彼はもう仲間たちの作る輪の中に戻って行ってしまった。 風に揺さぶられる柔らかそうな髪を視線で追いかけながら、胸を押さえた。 もっと話がしたい。 もっと見ていたい。 もっと近づきたい。 触れてみたい。 その思いがなんなのか、十四の俺には分からなかった。 それが「恋」なのだと自覚をしたのは、東塚菜緒樹(とうづか なおき)が卒業をしてからだ。
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