第1章

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こちらに向かってくる姿には見覚えがあった。 肌寒くなってきた夕方六時過ぎ。 部室のゴミをゴミ捨て場に持っていく途中、 頬の辺りだけが熱くなっていくのがわかる。 間違いない。あれは確かに―― 「あの人、おるよ」 恋焦がれる人の姿に隣を歩く友人も気付いた。 「あの人」と私の距離はどんどん近付いていく。 今見れば確実に目が合うだろう。 「ばいばい!」 と、そう言わなければ。 向こうも部活帰りで、茶化す友人はおらず今は一人。 これは待ちに待った絶好のチャンスだ。 「え? ……あぁ、ほんまや。気付かんかったわ」 私の声は友人に対しての誤魔化しの言葉になって出てきた。 あの人はというと、とっくに私の横を通り過ぎていった。 正直、気付かなかったわけがない。 友人より先に、私の目があの人のシルエットを捉えてから、 顔は熱くなるわ胸の辺りは何だかどくどくうるさいわで、 意識せずにはいられなかったというのに。 なぜあんな嘘を言ってしまったのだろう。
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