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こちらに向かってくる姿には見覚えがあった。
肌寒くなってきた夕方六時過ぎ。
部室のゴミをゴミ捨て場に持っていく途中、
頬の辺りだけが熱くなっていくのがわかる。
間違いない。あれは確かに――
「あの人、おるよ」
恋焦がれる人の姿に隣を歩く友人も気付いた。
「あの人」と私の距離はどんどん近付いていく。
今見れば確実に目が合うだろう。
「ばいばい!」
と、そう言わなければ。
向こうも部活帰りで、茶化す友人はおらず今は一人。
これは待ちに待った絶好のチャンスだ。
「え? ……あぁ、ほんまや。気付かんかったわ」
私の声は友人に対しての誤魔化しの言葉になって出てきた。
あの人はというと、とっくに私の横を通り過ぎていった。
正直、気付かなかったわけがない。
友人より先に、私の目があの人のシルエットを捉えてから、
顔は熱くなるわ胸の辺りは何だかどくどくうるさいわで、
意識せずにはいられなかったというのに。
なぜあんな嘘を言ってしまったのだろう。
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