第1章

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「言ったらよかった」 ゴミを捨て、帰路に引き返していたとき、私はぽつりと呟いた。 今更になって気持ちは素直になる。 「あほやなぁ」 隣から聞こえた呆れ声に、深く頷く。 「ほんま、あほや」 だめだ、泣いてしまう。あほな上に落ち込みやすいときた。 私はこの言葉を何週間言えずにいるんだろう。 一回、たった一回だけだが、あの人に言えたことなのに。 雨の日、真っすぐ帰る気にもなれず駅前で友人と話している時、 練習でびしょぬれになったのであろう彼と、男友達の姿が見えた。 そのときも、彼の姿が目に飛び込んできた瞬間、 私の心臓はうるさく騒ぎ始めた。 「おい」 男友達がおもむろに私に近づいてきた。 彼は少し離れたところで立ち止まっていた。 「あいつにばいばいって言いや」 「え?ちょっと……」 言いかけた私を見事にスルーして、そいつは立ち去った。 当然、彼もその後をついて行く。 その後ろ姿を見た瞬間、鼻の奥がツンとした。
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