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何なのあなた。そんなに体を密着させて、いやらしい!
その手を放して!
私の先生に触らないでよっ!
感じたことの無い毒々しい感情が塊となって、体内で爆発しそうになる。
「琴音!」
背後から恭子の声が聞こえた。
「良かった、まだここにいた。……あっ…」
私に駆け寄ってきた親友は、この状況に視線を巡らせ言葉を詰まらせた。
「君は……もしかして」
先生はさり気無く佐伯さんから体を離し、恭子の顔をまじまじと見る。
「はじめまして。岩崎です」
慌てて会釈をする恭子。
「やはりそうか。君があの時……」
「お友達が来たみたいだから、私達も二次会に行くわね。じゃ。稲森さんもあまり飲み過ぎちゃ駄目よ」
先生の言葉を打ち消すように届いた、佐伯さんの声。
彼女は離れた先生を追うように肘辺りのジャケットを掴み、悩まし気なラインを描く体を寄せると、グロスルージュが艶やかに光る唇を引きにっこりと笑った。
彼に触れる彼女を睨みつける私。
そんな私を見つめる、先生の視線。
きっと、やきもちを焼いてるのはバレバレだ。
彼女は職場のスタッフ。主任さんだっている。
こんな態度をとったら駄目だって、先生に迷惑を掛けるって、そんな事は分かってる。
だけどこんなの、笑って黙って見ていられない。
身体中の血液が沸き上がって苦しくてたまらない。
「……琴音、私達はもう帰ろ」
黙ったまま動かないでいる私を心配し、恭子が肩に手を乗せる。
先生は、私を守る様にして寄り添う恭子の目をジッと見つめると、
「…それじゃあ、気をつけて帰って下さいね。おやすみなさい」
恭子と私を交互に見て、静かな声でそう言った。
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