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彼は私をベッドに寝かせ、震える唇にキスを落とす。
その唇は首筋を伝い、鎖骨に沿って生温かな感触が辿って行く。
彼が触れる場所から、波紋の様に広がる熱。
「……」
バクバクと、心臓が壊れそうに拍動している。
何が気持ち良さなのかも分からない。心の準備も出来ず、先走る様に飛び込んでしまった私はただ怖くて、緊張で何も考えられない。
初めて与えられる感覚に耐えるように、強張った身体が小さく震える。
スカートの下からゆっくりと忍ばせ内脚を撫でる、彼の大きな手のひら。
「………ひゃッ!」
ぞくっとする未知の何かが、身体を走り抜けた。
アソコを突き破って……血が出るほど痛くて……
地から湧いたように恭子と亜沙美の言葉が頭に巡る。
刹那に、衝動的な恐怖心に見舞われた私は更に身体を固くし、訳も分からず涙が滲む瞼をギュッと閉じた。
「……ったく、無理しやがって」
溜め息混じりの小さな声が、私の耳を掠めた。
同時に、私の腿に触れていた彼の手が離れる。
「えっ?」
「やっぱ止めた」
「えっ!?止めたって…どうして!?」
体ごと離れて行く彼を見つめ、私は声を裏返す。
「今の琴音を抱いても虚しいだけだから」
「そんな……どうして…」
私は彼の後を追うように体を起こし、ベッドから立ち上がろうとする彼の背中を見た。
「それを俺に言わせるのか?……今夜は飲んでるから送ってやれない。今からタクシー呼ぶから、帰って頭冷やせ」
彼はテーブルの上に置かれた携帯を掴んで、それに視線を向ける。
「先生……嫌だ。帰りたくない」
「親に遅くなること言って無いんだろ?今夜はとにかく帰れ。来週会った時にゆっくり話そう」
彼は涙ぐむ私にそう言って、重苦しい沈黙の中に深い息を落とした。
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