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「結局のところ、今夜の花火に先生は来てくれるの?」
学食で、手つかずのパンケーキとにらめっこする私の前に現れた恭子。
彼女はパスタを乗せたトレーを置き、浮かない顔した私を見つめる。
「約束はしたけど…年末は忙しいから、花火の時間に間に合うか分からないって」
「ああ…そうか。開始19時だもんね。港周辺は大渋滞だし、30分間だけの打ち上げに間に合わせるの大変だよね」
「一度で良いから彼氏と見たかったんだ…クリスマスイブの花火。でも、その願いは叶いそうに無いな…。花火だけじゃなく、デートもドタキャンされちゃうかも」
口に運ぶ気力も無いパンケーキに生クリームを塗りたくり、その上に大きな溜め息を落とした。
「…あれからまだ気まずい雰囲気なの?」
「…少なくとも私は気まずい。先生はいつも通りメールすれば返信くれるけど…何か、冷たくされてる気がする」
「気がするだけじゃないの?」
「気がしちゃうんだから、本当はどうなのかなんて私には分かんないよぉ」
泣き言を言って、ひどく酸っぱいものを口に含んでしまった時のように顔をしかめる。
「はぁ~。その顔見てると…ロマンチックな夜になるはずのイブが台無しね」
恭子は呆れた様に言って、フォークに絡めたミートスパをパクリと口に入れた。
「…あの夜、白衣を脱いだ先生が他の女の人の隣りにいるのを見て、凄く遠い存在に思えた。私の知らない先生に見えたの。私のことなんか直ぐに飽きて、自分に釣り合う誰かの所に行っちゃう気がした。どうしてこんなに怯えてるんだろう。
…どうしてあの時、あんなに怖かったんだろう…先生に全てを捧げたいって、本気でそう思ってるのに」
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