742人が本棚に入れています
本棚に追加
花火を見上げる人々から歓声がわき起こる。
「先生……お願いだから来て……」
場違いな私は俯き、祈る様に両手で携帯を握りしめポロポロと涙を流す。
―――すると、手の中で携帯が震えだした。
先生!?
慌ててメール画面を開く。
【今着いた!どこにいる?】
えっ?どこって……
【中央広場のクリスマスツリーの下だけど…】
【中央広場!?今からそっち行く】
先生が来てくれた!嬉しい……先生に、先生に会えるんだっ!
一分、一秒でも早く会いたい!
苦しいくらいに胸が熱くなって、逸る気持ちが抑えきれない。
私は携帯を握りしめたまま、中央広場の入り口に向かって走り出した。
どこ!?
先生、どこにいるの!?
人々の隙間をすり抜け、先生が向かって来るであろう方向に視線を巡らせる。
「琴音っ!」
耳に届いた愛しい人の声。
彼の姿を捕らえた視界がぼやける。
「先生……センセっ!」
名を呼び、息を切らせ走って来た彼の胸に飛び込んだ。
「先生来てくれたっ!もう来てくれないかと思ってた!」
「はあ!?何だよそれ。遅れるかもとは言ったけど、遅れても来るに決まってんだろ。…それより、待ち合わせ場所のクリスマスツリーって、あのでっかい木の事だったのか?」
先生はツリーを指さし眉根を寄せる。
「え?そうだけど?」
「そうだけど?じゃない!俺はてっきり、道路沿いの入り口のツリーかと思って探したじゃねーか!」
「あ……そう言えば、どっちのツリーか言い忘れてた」
涙を手で拭い「へへへ」と笑う。
「ったく、おまえは。……お…おおっ!今見たか?ハート形の花火がいっぱい上がってたぞ!」
先生は視線を港に向けて夜空を仰いだ。
最初のコメントを投稿しよう!